高速道路会社6社のうち、中日本高速の金子剛一社長(68)=元住友スリーエム副社長=を除く5社の社長が一斉に交代することになった。2012年6月5日の閣議で了承された。
いずれも6月末の任期満了(1期2年)に伴うものだが、本州四国連絡高速以外は、前原誠司国土交通相(当時)による「天下り排除」の方針のもとで決められた経緯がある。この異例の人事の背景には何があるのか。
5社の新社長は、▽東日本高速が広瀬博・住友化学副会長(67)▽西日本高速が石塚由成・SUMCO元副社長(63)▽首都高速が菅原秀夫・元東京都副知事(65)▽阪神高速が山沢倶和・阪急阪神ホテルズ会長(64)▽本州四国連絡高速が三原修二・川崎重工業顧問(66)。中日本高速の金子社長は再任となる。いずれも6月末の各社の株主総会後の取締役会でそれぞれ正式に決定する。
経営者として適任でないと判断した結果
5社のうち本州四国連絡高速以外の4社の現社長は2010年6月に選任された。それ以前、高速道路会社の社長は旧道路公団や旧建設省のOBで占められており、前年9月に「脱官僚」を大きな柱に掲げて政権交代を果たした流れで前原氏が民間出身者に切り替えたのだった。
そんなトップたちがなぜ1期2年でお役御免になるのか。羽田雄一郎国交相は記者会見で、「交代は経営の問題ではない」とする一方、「高速道路のあり方の抜本的見直しや災害への備えなど課題が山積しており、任期満了を機に、適切に対応できる、ふさわしい方に社長をお願いすることとした」と、一般論を述べただけで、明快な理由は語らなかった。
ただ、国交省幹部は「経営の効率化や業績改善が進んでいない」などと、経営者として適任でないと判断した結果だったことを隠さない。特に東日本高速は役員数を増やしたことなどに強い批判が出ていた。
当然、高速道路会社側には不満が強い。「高速道路会社の決算は、新規区間の開通で急に売上高が増えることもあり、短期で評価するのは難しい」「トップを2年でコロコロ替えられたら、逆に経営は安定しない」などの不満が上がっており、「トップ人事には他に裏があるのではないか」などの見方も出ている。
「国交省が前原体制を一掃し、官主導に巻き返しを図ろうとしている」
この数カ月、前原氏が国交相時代に中止や白紙化を決めた大型公共事業が次々と復活している。2011年12月には八ッ場(やんば)ダム(群馬県)の建設再開と整備新幹線(北海道、北陸、九州新幹線)の未着工3区間の着工が相次ぎ決まった。そんな中での今回の人事。「国交省が前原体制を一掃し、政治主導から官主導に巻き返しを図ろうとしている現れ」(高速道路関係者)との観測も出ている。
ただし、前原人事にそもそも問題があったとの声もある。現高速道路会社のトップ人事は、前原氏が、自身と近い経済同友会に依頼して決めたとされる。このため、「政財界では、同友会が急ごしらえで決めたトップたちでうまくいくわけない、と言われていた」(財界関係者)。その点、今回は米倉経団連会長のお膝元、住友化学から広瀬氏が東日本高速社長に転じるように、経団連の影響は明らか。「財界の主導権争い」を指摘する声もある。
そもそも、民主党政権になって、高速道路政策は、看板に掲げた「無料化」の実験が行われたものの結局、凍結されたほか、料金割引、東北無料化などでも二転三転するなど「揺れ」が目に余った。「政治(家)主導か官僚主導かといった二元論的な議論でなく、民主党政権の政策と実際の運営をきちんと総括する必要がある」(エコノミスト)といえそうだ。