(ゆいっこ花巻;増子義久)
「あの震災の記憶の風化を防ぐため、自分たちの体験を語り継ごう」― 東日本大震災の際の奇跡的な救出劇がきっかけで誕生した、花巻市内のかけはし交流産直「結海(ゆうみ)」の一角に11日、「語り部コーナー」がお目見えした。囲炉裏をかたどったコーナーではこの日、2組の被災者が訪れた買い物客などに辛い体験を話した。
「助けてと叫びながら、津波に飲まれていく知人や友人たち…。その数、何百体。あの時の光景が脳裏に焼き付き、自分も後を追うことばかり考えていました。 夫の葬儀をすまし、1年たってやっと体験を少しずつ話す気持ちになれました」。夫を失い、花巻で避難生活を続けている、大槌町出身の伊藤ヤスさん(75)の話に買い物客が耳を傾けた。
花巻市内の照井テルさん(80)は「言葉がありません。ただただ、お気の毒で…」と絶句した。知人で北上市からやってきた沼田久さん(72)も「大槌には何度も足を運んだ。あの美しい風景が一瞬のうちに消えてしまったのかと思うと…」と言って涙を流した。伊藤さんが言葉を継いだ。「正直言うと、話しているうちに辛くなるんです。でもね、2万人もの犠牲者の無念は語り続けなくてはと思うようになりました」
「3・11を忘れまい」と結海では毎月11日、各種イベントを開催することにしており、この日はゆいっこ花巻の橋渡しで歌声喫茶を指導している元音楽教師 の阿部つとむさん(70)ら5人が賛助出演した。突然、参加者約30人による「ここに幸あれ」の大合唱が店内に響き渡った。たまたま、この日が結婚50年 の記念日に当たっていた坂本寛(76)・洋子(72)さん夫妻に対するサプライズ!「隠していたんだが、どこでバレたんだか。でも嬉しいな」。大槌町で被災し、花巻市東和町で避難生活を送っている夫妻はこう言って顔を崩した。
太平洋(大槌町)と日本海(秋田県五城目町)―。あの震災をきっかけに結ばれた絆(きずな)が中間点にあたる花巻の地で新しい息吹きを生み出しつつあるようだ。ゆいっこ花巻では「語り部コーナー」の常設化を含めて、この空間を記憶の拠点化にすることも検討している。
ゆいっこ
ゆいっこネットワークは民間有志による復興支援団体です。被災地の方を受け入れる内陸部の後方支援グループとして、救援物資提供やボランティア団体のコーディネート、内陸避難者の方のフォロー、被災地でのボランティア活動、復興会議の支援など、行政を補完する役割を担っております。
ゆいっこは、「花巻」「盛岡」「北上」「横浜」「大槌」の各拠点が独立した団体として運営しておりますが、各拠点の連携はネットワークとして活用しております。
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