原発事故の影響で電力不足が見込まれる中、2年後に着工されるリニア中央新幹線が必要なのか、建設各地の説明会で疑問も出ている。原発1基分に近い大量の電力が使われることになっており、それに見合った需要があるのかというのだ。
「原発事故が収束しないときに、原発の電気を使用するのか」
原発がないとリニアは動かない?
新聞報道によると、建設地の岐阜県中津川市で2012年6月13日に約500人が参加して開かれた説明会では、住民らからこんな疑問の声が出た。JR東海では、理解を深めてもらおうと、リニアが通る7都県で5月から順次新たな説明会を開いている。しかし、その経済効果への期待は多いものの、大量の電気使用などを巡って不安の声も出ているようだ。
リニア中央新幹線は、2027年に東京―名古屋間が開業、45年には最終目的地の大阪まで到達する計画だ。最高時速は500キロにもなり、全線開業なら大阪までわずか67分で結ぶ。ところが、消費電力は現行新幹線の約3倍にもなるため、大阪まで約74万キロワットと原発1基分に近い電力が必要になる。
リニアは、東電、中電、関電の3社から電力供給を受ける。しかし、東電は、原発事故がまだ収束したとは言えない状態だ。また、中電・浜岡原発は、停止されており、関電・大飯原発は、橋下徹大阪市長らが夏期限定稼働を主張するなどもめている。
そんな中、JR東海の葛西敬之会長は、産経新聞の5月29日付コラムで、日本の経済力維持を考えれば、無傷の原発は最大限稼働させなければならないと主張した。11年5月24日も同じコラムで、「原発継続しか活路はない」と説いている。これは、原発がないとリニアは動きそうもないという意味なのか。
JR東海の東京広報室では、取材に対し、「発電手段については、国及び電力会社が決定されるものです」と答えただけで、原発の影響については明かさなかった。
国や電力会社の都合で止まってしまう?
一方で、国交省が2011年5月に必要なインフラと認めてリニアの建設を決めているとして、「運行に必要な電力については、国と電力会社の責任において供給していただけるものと考えています」とコメントした。これは、電力不足になったときの責任は自らにないとも受け止められるものだ。
リニアが必要なインフラというのは、JR東海が、2つのポイントを挙げている。1つは、東海道新幹線が50年近く経って老朽化していることだ。交通量が多く、橋げた改修などのために運行を止めるわけにいかず、バイパスとしてリニアが必要だという。もう1つは、東海地震で想定される震源に近く、やはりバイパスが必要になることがある。リニアはトンネル内を走るなどのため、揺れが伝わりにくく地震に強いそうだ。
とはいえ、東海道新幹線は、バブル期をピークに利用が横ばいの状態が続いている。今後、高齢化や人口減、慢性的な不況などで利用が減少に転じることも考えられる。リニアはさらに割高の運賃になる見込みだが、それでも安定的な収入が見込めるほどの需要はあるのか。
JR東海の東京広報室では、リニアの運賃について、東京―大阪間で東海道新幹線より1000円ほど高い1万5000円ほどに留めれば、大幅な時間短縮効果で十分な需要が見込めると説明する。
国の交通政策審議会では、経済成長率0%という最も慎重な試算が評価されたといい、東海道新幹線も含めての収入が、名古屋開業で5%増、大阪開業までに徐々に増えて15%増と見込んでいるとした。9兆円もの建設費はJR側がすべて賄うが、そんな中でも、「健全経営を堅持しつつ、開業前後を通じて安定配当を継続できることを確認しています」と言う。
ただ、あくまでもそれは想定の電力供給があった場合であり、国や電力会社の都合によっては、大幅な電力不足にならないとは限らない。リニアが止まったり利用が低迷したりして、運行後に公的資金に頼る状況にならないのか。今後、さらなる精査が求められそうだ。