円と人民元の直接取引、動き出す アジアから「ドル基軸」を揺さぶる

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   円と中国人民元の「直接取引」が6月から東京と上海の外国為替市場で始まった。為替手数料削減などで日中貿易の拡大が期待できる。中国には「人民元の国際化」という狙いもあり、将来的にドルを基軸とする国際通貨体制にも一石を投じることになりそうだ。

貿易決済の手数料コストが割安に

   市場関係者によると東京市場で初日(6月1日)に取引された人民元の取引量はご祝儀もあって約8億元(約98億円)と、「順調な滑り出し」(関係者)。東京市場ではこの日、1元=12円33銭近辺で初値をつけた後、やや円が買われ、上海市場でも1元=12円30銭近辺で推移。翌週以降も1元=12円台半ばでの落ち着いた取引が続いている。

   直接取引のメリットは、まず手数料引き下げによる人民元の調達コストの削減だ。従来は円と人民元を交換するには、いったんドルを介していたため、円-ドル、ドル-人民元と2回交換、その都度手数料が必要だった。これが円-人民元の1回で済むから、貿易決済のコストが割安になる。ドルの乱高下による為替リスクの軽減につながるのも大きなメリットだ。

   日本にとって中国は言うまでもなく、最大の貿易相手国で、貿易額は2011年に27兆5000億円と10年で2.5倍に拡大している。その決済がより低コストになるのだからメーカーも商社も恩恵を受ける。個人が旅行する際の人民元への両替も手数料が安くなる可能性があるほか、元建て債券などの金融商品が増えるかもしれない。FX取引大手のセントラル短資FXは7月2日から円・元の24時間取引を始める。

「元の国際化」に舵を切る

   一方の中国には、「ドル依存を脱却したいとの思惑がある」(国際金融筋)。中国の外貨準備高は現在、世界一の約3兆ドル(240兆円)。その構成比は明らかではないが、大半がドルとみられる。貿易黒字でため込んだほか、対ドルの人民元の上昇(元高)阻止のための元売り・ドル買い介入で膨らんだのだ。

   今回、ドル以外の主要国通貨の中で、円が直接取引"解禁"の第1号になったのは、円の通貨価値が相対的に安定していることに加え、「中国にとって米国に次ぐ第2の貿易相手国である日本から決済で受け取るドルを減らしたいという事情がある」(同)。

   さらに、リーマンショック後、欧州危機に至るまで、国際金融不安の高まりの中で、中国がドル調達に苦労する局面もあったといわれる。グローバル化時代に通貨が国際化していない弱点を突かれた格好で、「元の国際化に舵を切らざるを得なくなった」(財務省幹部)といえそうだ。

まだまだ残る「規制」の壁

   いずれにせよ、世界の成長センターであるアジアで、円と元という地域の2大通貨が手を携え、国際化を進め、使い勝手が良くなれば、これまでのドルでの決済が円や元での決済に置き換わっていく可能性がある。それがドル基軸体制を徐々に浸食することになるとみられる。

   ただ、それもこれも、円・元取引が拡大していくのが大前提。直接取引スタートの日、為替手数料(銀行が提示する交換レートの売値と買値の差額)が1元あたり0.35~1銭程度で、従来取引とほとんど変わらなかった。これは、東京市場の人民元の取引量が、ドルの2000分の1に過ぎないため、銀行は人民元を安く調達できず、手数料を引き下げられなかったためという。

   日中貿易の決済は現在、ドルが6?7割を占め、人民元は1%に満たない。人民元比率が徐々に高まって行くのは間違いないだろうが、レートが本当に市場取引で自由に決まるのかの疑問も消えない。

   ドルと人民元は香港で直接取引されているが、値幅制限が設けられている。円・元直接取引も、東京は自由な取引なのに対し、上海市場はこちらも値幅が制限されている。この"ねじれ"のため、例えば東京の円・元相場が乱高下して3市場間の水準に大きな差ができるなど、混乱しないとも限らない。「中国の株式投資への外資規制など資本の流出入に残る制限も含め、中国の規制の壁を下げていくことが不可欠」(エコノミスト)との指摘は多く、まだ課題は山積のようだ。

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