時事通信社の記事に、共同通信社の配信を示す「ワシントン共同」の表示がついていた。「珍現象」にもみえる事態は、時事の記者が共同の記事を「参考にしながら」執筆した際に「共同」の記述を残したまま配信したためだという。
他社の記事の「盗用」が発覚したケースは過去にも見られるが、今回はどういった経緯だったのか。
「リスクをとりたくない症候群」と批評
共同通信は2012年6月13日、時事通信が記事の発信地表示を「ワシントン共同」として配信したことを共同に謝罪したと伝えた。共同の記事をパソコンの画面上に張り付けて、それを参考に記事を書いたことが原因だという。時事の安達功編集局長が「今後、社内教育を徹底し、再発防止を図ります」との談話を発表した、としている。
実は2011年1月にも、時事は同様のトラブルを起こして謝罪している。ノルディックスキーのワールドカップで報じた記事内容が共同のものと酷似していたうえ、この時も「共同」とつけたまま配信したため、共同の記事を写して転用したのではないか、とされた。この時、記者は降格と休職1か月という処分を受けている。
他社の記事を「盗用」するケースは、過去数年だけでも数回起きている。2007年、朝日新聞電子版に掲載された「かんもち」の記事で、表現内容が読売新聞のものと酷似しており、朝日側は謝罪した。08年にはNHK長野放送局松本支局の記者が、信濃毎日新聞の記事盗用で諭旨免職となった。大手メディアの間でたびたび同じ過ちが起きるのはなぜなのか。
今回の一件について、東京新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏がツイッター上で興味深い発言をしている。同じニュースを追っている他のメディアの記者がどう書いているか、ネットの広がりで分かるようになったことで、「自分が書き始める前に、まず他社の原稿をチェックするって類の記者がかなり前から出ていた」と指摘。これにより原稿の内容が「横並び」になったという。記事をチェックする「デスク」も、自社記事が他社の内容と同じようなものが出てくれば安心し、そうでないと「ウチが間違っているのでは」と心配になる。そのうえで「デスクも記者もみんな自分で考えてない。リスクをとりたくない症候群」と批評した。