牛丼チェーン店の売上高が「頭打ち」になっている。これまで集客に効果を発揮してきた値引き合戦も、「神通力」が薄れた形だ。
2012年5月の営業成績は、「すき家」を展開するゼンショーホールディングス(HD)、「吉野家」の吉野家ホールディングス(HD)、「松屋」の看板を掲げる松屋フーズの大手3社とも、売上高と客数を前年同月に比べて大きく減らした。客単価はなんとかプラスにしたが、苦戦を強いられている。
吉野家「牛鍋丼」は好調
「吉野家」の5月の営業成績(既存店ベース)によると、売上高は前年同月に比べて10.5%減、客数は15.0%減となった。11年5月の値引きキャンペーンの反動によるマイナスだ。ただ、客単価は5.3%増えた。
牛丼の「値引き合戦」に出遅れていた吉野家は2010年9月に発売した「牛鍋丼」を280円(並盛)で提供。「牛丼」並盛(380円)よりも安い価格設定で、1か月足らずで1000万食を売った。
その牛鍋丼が消費者に定着してきたこと、また牛鍋丼の具にもう一品を追加する「追っかけ小鉢」(牛鍋豆腐50円、青ネギと生卵70円)をラインナップしたことによって、具材を増やす楽しみを提供する狙いが客単価の向上につながってきた。
ただ、吉野家HDによると、それでも「売上げは牛丼の構成比のほうが大きい」と話し、「牛丼人気」が客単価を支え、押し上げているとみている。
同社はこれまでも「値引き競争にはくみしない」と繰り返してきた。それによりお客を奪われたが、吉野家の客数は11年12月にようやく前年同月比プラスにした。しかし、それもその後はなかなか安定しない。
「松屋」「すき家」は商品ラインナップで攻勢
「松屋」は2012年1月に「牛めし」の定価を40円引き下げて、280円(並盛)にした。最安値だった「すき家」に対抗して、同じ価格に設定した。
そうした中で5月の売上高は既存店ベースで、前年同期比6.3%減。客数は10.3%減。客単価は4.5%増えたが、表情はさえない。「1年前、とくに上半期は値下げキャンペーンもあって好調だったので、前年の反動減が大きい」ことはあるが、値引き合戦の盛り上がりが収まってきて、効果が薄れている。
とはいえ、売上高の落ち込みを、他社が2ケタ減のところを6.3%減に踏ん張ったのは、新商品の投入が功を奏したからだ。5月には「豚しゃぶ丼」や「お好み豚しゃぶ定食」を新発売。夏らしい、さっぱりしたメニューで、カウンターに置いてあるタレを好みでかけて食べられるスタイルがウケた。「地道に新商品を投入しながらファンを増やす」作戦だ。
もう一方の「すき家」の5月の売上高は10.8%減。客数は12.1%減、客単価は1.5%増だった(既存店ベース)。ゼンショーHDによると、「昨年は東日本大震災の影響もあってイレギュラーと考えています。その中にあって昨年の売上げは値下げセールでの伸びもあるので、顕著に推移しているのと同じと考えています」と話している。
しかし、既存店ベースの売上高は11年9月から9か月連続して前年割れの状況だ。
牛丼の値下げ競争について同社は、「現在はまだ検討中です」と話す。値引き効果が薄れてきたといった見方もあるが、「消費者ニーズと商品ラインアップ、販促活動とを考慮しながら、その時その時で判断していく」と説明している。