静岡県が、浜松市の浜名湖入り口の東岸から天竜川西岸の約17.5キロメートルにわたって、防潮堤の整備に乗り出すことになった。異例なのが、この防潮堤の整備が地元で創業された住宅メーカーの一条工務店グループ(東京都江東区)の寄付で行われるという点だ。寄付の額は、3年間で300億円にのぼる。
浜松市では最大14.8メートルの津波を想定
この計画は、静岡県の川勝平太知事と浜松市の鈴木康友市長が2012年6月11日夕方、県庁で会見して発表した。静岡県、浜松市、一条工務店グループの三者基本合意によると、一条工務店グループが12年度から3回に分けて300億円を寄付する。県は、できるだけ早く防潮堤を着工し、水門など周辺設備の整備も合わせて行う。
現時点では、整備対象区域には海抜約9~10メートルの高さに、幅約130メートルにわたって保安林が整備されている。県の「第3次地震被害想定」には、すでに対応しているが、内閣府の有識者検討会が12年3月にまとめた南海トラフ沿いの巨大地震の想定では、最大で従来想定の倍以上にあたる高さ14.8メートルの津波が予想されている。県では12年6月に「第4次地震被害想定」をとりまとめることになっており、これから整備される防潮堤の高さも、想定の津波の高さを上回るように計画する。
創業者が「防潮堤で安全、安心が手に入る」と発案
これだけの公共事業を民間企業1社の寄付で行うのはきわめて異例だ。寄付を決めた一条工務店グループは、1978年に浜松市で操業。全国に営業拠点を持ち、木造注文住宅メーカーとしては大手だ。免震住宅では、国内では8割の圧倒的なシェアを持っている。同社ウェブサイトによると、11年3月31日時点で、連結ベースの売上高は2189億円で経常利益は191億円だ。株式は上場していない。リーマンショック後は順調に業績を伸ばしている。
同社によると、今回の計画は創業者の大澄賢次郎氏が発案。創業地の浜松は地震や津波のリスクが高く、「防潮堤で安全、安心が手に入る」「創業の地に恩返しがしたい」と考えたという。だが、一企業が防潮堤を整備するのは現実的ではないことから、11年4月頃、自動車大手スズキ(浜松市)の鈴木修会長兼社長に仲介してもらい、静岡県や浜松市に整備計画を打診したという。
寄付額は、同社が防潮堤の総工費を試算したところ、300億円以内で収まると判断したことを根拠に決めた。
着工は14年4月以降になる見通しだが、同社では
「思いとしては1日も早く着工してほしい」
と話している。