他企業で採用されなかった人材でもいいとはならない
大学3年生にとっては、まだ就職活動が本格化していないためか、東電の「新卒採用再開」はそれほど大きな話題になっていないようだ。厳しい就職状況が続くうえ劇的な改善がすぐには望めない中、東電の採用の門戸が開いたことで、一部学生が就職口の候補に入れても不思議はないだろう。だが石渡氏は、「よほどの覚悟や志がなければ、就職先としてお勧めしません」と明言する。
就活生にとって魅力的な企業の条件には、給与面と並んで社会的なステータスがある。東電の場合、たとえ給与面は満たされたとしても、ステータスの面では大変厳しい状況だ。原発事故後からこれまでの対応ぶりを見た限りでは「今後、就職先としての人気が事故前の状態まで回復するとは思えません」(石渡氏)。
一方で、東電がなりふり構わず500人確保しようと動くこともなさそうだ。「東電はプライドが高い。ほかの会社で採用されなかった人材でもいい、とはならない」と石渡氏はみる。企業が優秀な学生を入社させたいと考えるのは当然だが、「勘のいい学生なら、仮に入社しても新人は『クレーム対応』に回されて顧客から散々厳しい批判を浴びると想像するでしょう。結局『割にあわない』と敬遠するケースが結構多いのではないでしょうか」
東電は、電気料金値上げの理由のひとつとして「人材確保」をあげている。値上げにより給与増額、さらにはボーナス分をねん出して社員の流出を食い止め、若く活力あふれる人材も獲得するねらいだ。しかし、原発事故対応や被災者への損害賠償を抱え、逆風にさらされている会社に学生が希望を胸に入社してこられるかどうかは疑問だ。