高度経済成長期に大量に作られた道路や橋などのインフラが一斉に更新期を迎えつつある。国土交通省は耐久性を再チェック、2012年5月末、社会資本整備重点計画(2012~16年度)の最終案をまとめた。「防災」を軸に、高度成長時代に戻るかのような大風呂敷をひろげているが、補修には巨費がかかる。厳しい財政事情の中ではとてもすべての実現は不可能だ。何が真に必要なインフラか、選別を強いられることになりそうだ。
10年後には全国の橋の26%が寿命
インフラの中でも老朽化が深刻なのが橋梁だ。昨年3月11日の東日本大震災で、茨城県行方市と鉾田市を結ぶ霞ケ浦にかかる鹿行大橋(404メートル)の中央部60メートルが落ち、走行中の車1台が転落して1人が亡くなった。並行して新橋が2002年着工されていて、震災後にピッチを上げ今年4月に完成したが、落ちた橋は築43年にもかかわらず、ろくな点検もされていなかった。
老朽化は各地で進み、国土交通省のまとめでは、全国15万余りの橋のうち、寿命と言われる築50年は現在8%だが、10年後には26%(約4万カ所)に達する。例えば1日に77000台が通行する徳島市の玄関口、吉野川大橋(1137メートル)は今年1月、鋼材の溶接部など268カ所にひび割れが見つかったため一部通行止めになり、大渋滞を招いた。こうした通行規制を受けた橋は2008年の680カ所から3年間で1129カ所へと1.5倍に増えた。
橋だけではない。例えば首都高速道路で2002年度以降に見つかった損傷累計26万件のうち、9万7000件が2009年度までに補修できていない。5月の首都高会社の内部委員会には、更新を検討する路線は全路線の4分の1の75キロに達するとの資料が配布された。
水道管の老朽化も全国で深刻な問題になってきている。例えば京都市では1年前に腐食した水道管が破裂、その影響ですぐ近くを走るガス管に穴が空き、1万5000世帯に影響が出た。同市内で水道管120キロが早急に取りかえる必要があるというが、今のペースでは200年かかるという。
維持更新に50年で190兆円必要
インフラは全体でどのくらい痛んでいるのか。国交省の推計では、港湾、下水道、住宅など8分野の維持・更新費用は50年間で190兆円必要というとてつもない数字になる。
そこで国交省が5月末にまとめたのが社会資本整備重点計画(2012~16年度)の最終案だ。「防災対策」を大きな柱として打ち出したのが特徴で、例えば1日の利用者が1万人を超える主要駅の耐震化を2015年までに全て終えるほか、緊急輸送道路上の橋の耐震化も2010年度の77%から2016年度に82%に高めることなどを盛り込んでおり、老朽インフラ対策を含む内容になっている。
これに呼応した訳ではないだろうが、自民党は5月末に次期衆院選向けの目玉政策の一つとして「国土強靭化基本法案」を発表し、10年間で公共事業に200兆円を投じる構想を打ち出した。「防災の考え方に立ち、有効需要を作る」(茂木敏充政調会長)のが狙いという。
ただ、国交省の「50年で190兆円」の大風呂敷にしても、同省自身が30兆円の財源が足りないと弾いているように、財源の見通しは立っていない。
国交省が「経済成長時代の発想から抜け切れていない」(民間シンクタンク)なかで、自治体レベルでは地道な取り組みも見られる。香川県さぬき市は西部の築50年の橋の廃止を打ち出した。過疎地域にあり、90メートル離れて新しい橋が出来るから、多少の不便は我慢してもらう考えだ。青森県は、現在ある橋の維持・補修に2764億円必要とされているのを、老朽化前にうまくメンテナンスすれば808億円に圧縮できると試算し、注目されている。神奈川県秦野市は公共施設の床面積を40年かけて3割減らす計画を立て、その一環として今年10月から市保健福祉センターの一角を郵便局に貸して住民票発行を委託する予定。埼玉県宮代町も体育館を民間業者にリースする計画という。
こうした「選択と集中」といえる取り組みは、まだ始まったばかりだが、財政の制約の下では避けて通れない道だ。