維持更新に50年で190兆円必要
インフラは全体でどのくらい痛んでいるのか。国交省の推計では、港湾、下水道、住宅など8分野の維持・更新費用は50年間で190兆円必要というとてつもない数字になる。
そこで国交省が5月末にまとめたのが社会資本整備重点計画(2012~16年度)の最終案だ。「防災対策」を大きな柱として打ち出したのが特徴で、例えば1日の利用者が1万人を超える主要駅の耐震化を2015年までに全て終えるほか、緊急輸送道路上の橋の耐震化も2010年度の77%から2016年度に82%に高めることなどを盛り込んでおり、老朽インフラ対策を含む内容になっている。
これに呼応した訳ではないだろうが、自民党は5月末に次期衆院選向けの目玉政策の一つとして「国土強靭化基本法案」を発表し、10年間で公共事業に200兆円を投じる構想を打ち出した。「防災の考え方に立ち、有効需要を作る」(茂木敏充政調会長)のが狙いという。
ただ、国交省の「50年で190兆円」の大風呂敷にしても、同省自身が30兆円の財源が足りないと弾いているように、財源の見通しは立っていない。
国交省が「経済成長時代の発想から抜け切れていない」(民間シンクタンク)なかで、自治体レベルでは地道な取り組みも見られる。香川県さぬき市は西部の築50年の橋の廃止を打ち出した。過疎地域にあり、90メートル離れて新しい橋が出来るから、多少の不便は我慢してもらう考えだ。青森県は、現在ある橋の維持・補修に2764億円必要とされているのを、老朽化前にうまくメンテナンスすれば808億円に圧縮できると試算し、注目されている。神奈川県秦野市は公共施設の床面積を40年かけて3割減らす計画を立て、その一環として今年10月から市保健福祉センターの一角を郵便局に貸して住民票発行を委託する予定。埼玉県宮代町も体育館を民間業者にリースする計画という。
こうした「選択と集中」といえる取り組みは、まだ始まったばかりだが、財政の制約の下では避けて通れない道だ。