生活保護受給者が急増している背景の一つに、厚生労働省が2009年に2度にわたって出した「通達」があるのでは、との見方が強まっている。
生活保護の受給者は2012年2月時点で約209万7000人となり、過去最多を更新している。最も少ない1995年度(月平均)と比べると、2.4倍にあたり、12年度の支給額は3兆7000億円に膨らむ見通しだ。
現行制度は「性善説」が前提になっている
生活保護の受給者は2008年秋のリーマン・ショック後に増え始めた。非正規労働者の、いわゆる「派遣切り」が社会問題化し、その年の暮れには東京・日比谷公園に「年越し派遣村」ができた。当時の首相は自民党の麻生太郎氏。民主党などは激しい「格差社会」批判を展開した。
生活保護の急増のきっかけは、麻生内閣のときの09年3月、厚生労働省が働くことが可能な若い失業者にも、生活保護費を支給するよう都道府県に求める通知を出したことが引き金となったとされる。厚労省は「失業による救済であり、生活に困窮して生活保護を必要とする人が受けられないことのないよう、徹底しただけ。適用要件などを緩和したわけではない」と説明している。
さらに、民主党に政権交代した後の鳩山由紀夫内閣のときの09年12月に、厚労省は「速やかな生活保護の決定」を改めて通知した。「経済、社会情勢が引き続き安定せず、政府としても緊急雇用対策を進めていたなかで、低所得者対策として再度通知した」(厚労省)と話す。このときも「適用要件の緩和ではない」と、生活保護が受けやすくなったわけではないとしている。
もちろん、経済情勢の悪化は影響しているが、スピード優先もあって、生活保護の増加はこれ以降、歯止めがかからなくなっていった。
ある自治体の生活保護の担当者は、「現行制度は性善説に基づいたセーフティネット。申請する人が制度のスキマを突き、悪用しないということを前提にしている。だから、中小企業の経営者が節税対策をするような感覚で、生活保護制度を使おうと思えば使えてしまう」と明かす。
世帯ごとの判断「役所としては難しい面がある」
生活保護の受給者は、2011年7月に205万人を超えて過去最多となってからも、毎月のように増えている。とくに目立つのは、働ける世代を含む「その他の世帯」の増加だ。10年度の受給世帯は前年度と比べて3割増の約22万7000世帯にのぼった。
生活保護費は、年齢や世帯構成、居住地域などに応じて決まる最低生活費から、給料などの収入を差し引いて支給される。全国一律な基準はなく、各地方自治体の福祉事務所が判断する。
前出の自治体の生活保護担当者によると、「生活保護は世帯ごとで判断していくが、子供の年収が700~800万円あるのに親の扶養を断るケースは山ほどある。ただ、生活保護の場合、親子の人間関係にも立ち入るので、役所としては判断が難しい面がある」と弁明する。
本来慎重に処理すべき案件であっても、スピード優先で処理件数だけどんどん増やせば、その中に「不正」と思われる案件が紛れ込んでも不思議はない。