日本経済新聞が、任天堂の家庭用ゲーム機「Wii」の次世代機に関する記事を掲載したところ、任天堂が即座に「全くの憶測記事」と打ち消した。
2012年3月にも、日経産業新聞の報道をめぐって「推測に基づいて書かれたもの」と否定、2月には岩田聡社長がツイッターで日経新聞のものと思われる記事を「不正確な報道」と断じている。今回はわざわざ「数多くの間違い」を強調するなど、怒りがエスカレートしている。
「カーナビや電子書籍機能」社長プレゼンには登場せず
2012年6月5日付の日経新聞朝刊では、任天堂の新型家庭用ゲーム機「Wii U」に関して、新たな機能が具体的に説明されている。スマートフォンに対抗するため、ゲームだけでなくカーナビゲーションや電子書籍が使えるようになり、利用者同士によるインターネット経由での情報交換、さらに通信カラオケも楽しめるようになるという。発売は2012年末で、小売価格は3万円程度になると記事では説明している。
任天堂の岩田聡社長は、米ロサンゼルスで6月5日(日本時間6日)から開催されるコンピューターゲームの見本市「E3」で「Wii U」の概要を発表する予定だ。それに先立ち同社サイトでは、岩田社長による「Wii U」のプレゼンテーション動画を公開している。そこでは、日経報道に出たカーナビ機能や電子書籍について一切触れられていない。
記事ではさらに、携帯用ゲーム機「ニンテンドー3DS」にも触れている。現行モデルの画面サイズより約1.5倍大きい新型機を、2012年夏にも投入するというのだ。ただ岩田社長はプレゼン映像の中で、「E3のプレゼンテーションでは『Wii U』について集中的にお伝えしたいと思うので、ニンテンドー3DSに関する情報は別の機会にお伝えすることを予定しています」と話している。E3の期間中に「大画面版3DS」の発表は、あまり期待できないかもしれない。
任天堂は記事について、ウェブサイトで公式コメントを発表。「当社が発表あるいは事実確認したものではなく、数多くの間違いが含まれた、日本経済新聞社の全くの憶測記事です」と、強いトーンで指摘したのだ。具体的にどこが間違いかを聞こうと任天堂広報に電話取材を試みたが、「リリースに書かれていることがすべて」との反応。詳しく回答できる担当者が全員「E3」のため出払っていることもあり、記事について日経新聞に何らかの措置を講じるかとの問いにも「分からない」とこたえるのみだった。
任天堂が、厳しいともとれる表現で記事内容を否定してみせたのは、今年3月にも同様のケースがあったためと想像できる。
3DSの韓国発売日は間違っていなかった
日経産業新聞が3月16日の紙面で掲載した「任天堂3DS アジア市場に的」という記事は、「ニンテンドー3DS」を4月28日に韓国で発売し、今夏には香港と台湾の市場にも投入するという内容だ。このときも任天堂は同紙の発行当日にリリースを出し、「憶測に基づいて書かれたもの」と事実関係を否定していた。
ただしこの記事は、あながち間違ってはいなかった。任天堂広報に確認すると、3DSが実際に韓国で発売されたのは、記事にあるとおり4月28日だったのだ。「結果的に記事通りになった」かもしれないが、日経側が事前に詳細をつかんでいたとも考えられよう。
会社として公式に「憶測だ」と断じた以外に、日経報道をめぐる騒動はほかにもある。2月22日、岩田社長がツイッターで「月曜日に電子版媒体で当社に対する不正確な報道がありました」と指摘した一件だ。これは2月20日、日経電子版に掲載された「岩田社長が口にした、任天堂の『没落』」という記事を指しているとみられる。刺激的な見出しは、記事冒頭に登場する「このままでは没落してしまう」という、岩田社長が語ったとされるフレーズからとったものだ。
ツイッターで岩田社長は「このようなことが何度か続いていますが」と、過去にも類似のケースがあったとにおわせた後、「文脈を無視して恣意的に言葉を抜き出したり、事実と憶測を混ぜて書いたり、まるでゴシップ誌のような手法を採られていることに驚いています」と手厳しく批判した。
過去の経緯もあってか、任天堂は今回の「Wii U」報道否定の際にわざわざ「数多くの間違い」「全くの憶測」と強めの言葉づかいで、日経に対する「怒り」を表現したのかもしれない。