自慢の食材が借り物に 郷土料理を奪われた無念さ【福島・いわき発】

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   知人の三回忌法要のあと、寺から結婚式場へと場所を変えて精進あげが行われた。テーブルに知人ともう一人の知人の共著『ふるさといわきの味あれこれ』(=写真)が置いてあった。この日のためにもう一人の知人が編んだ友情の一冊だ。非売品である。


   歴史研究家の小野一雄さん(小名浜)と故佐藤孝徳さん(江名)は四十数年来の友。「はしがき」に冊子をまとめた経緯を記す。平成8(1996)年、朝日新聞福島版に佐藤、小野さんが「ふるさとの味 いわきから」を連載した。冊子にはそのときのハマの味37編が収録されている。佐藤さんが28編を、小野さんが9編を担当した。


   アンコウの共和(あ)え・マンボウのかす漬け・サンマのぽうぽう焼きなど、ヤマ育ちの人間には想像もつかない食べ物が次々に出てくる。小野さんの佐藤評を紹介した方が手っ取り早い。食材と調理法、味わい方にとどまらず、「その食材にまつわる歴史とエピソードを織り交ぜ、さらに独自の意見を披歴した記述は、正に佐藤氏の得意とするところだった」。


   読み進むごとにいわきのハマの豊かな食文化に魅せられていく。いわきの誇る食材と味。佐藤家で仲間とともにマンボウの刺し身その他をふるまわれたこともある。珍味としか言いようがなかった。が、原発事故がこの伝統郷土食を奪った。食材が借り物になった。「無念さが昂ぶってくるのを禁じ得ない」と小野さんは言う。


   そのことを胸底に置きつつ、小野さんは佐藤さんと二人だけの共著を霊前にささげることにした。友情と悲憤に裏打ちされた、小さいけれども重い冊子だ。

(タカじい)



タカじい
「出身は阿武隈高地、入身はいわき市」と思い定めているジャーナリスト。 ケツメイシの「ドライブ」と焼酎の「田苑」を愛し、江戸時代後期の俳諧研究と地ネギ(三春ネギ)のルーツ調べが趣味の団塊男です。週末には夏井川渓谷で家庭菜園と山菜・キノコ採りを楽しんでいます。
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