電気自動車(EV)の充電方式を巡り、世界で3つの異なる規格が来年、生まれそうだ。急速充電器の実用化で先行する日本が目指した「国際標準化」に米欧メーカー、中国政府が「待った」をかけた形。将来的に統一されるまでの間は、各メーカーが地域ごとに異なる仕様のEVを製造するなどの対応が必要となりそうだ。
30分でフル充電できる
日本勢は「チャデモ(CHAdeMO)」方式と呼ぶ急速充電器の規格の普及を呼びかけている。2010年3月にEVを製造、販売している日産自動車や三菱自動車、東京電力などによってチャデモの国際標準化を目指す「チャデモ協議会」を設立。これまでに国内外に約1400カ所に設置した実績を持っているだけでなく、仏プジョー・シトロエン・グループなど日本勢以外で採用するメーカーも出始めている。
ところで、なぜ急速充電器が重要なのか。EVは一回のフル充電で走れる距離が一般的には160キロメートル程度とされており、「マンタン」状態のガソリン車(約600キロメートル)に比べ、4分の1程度にとどまる。EVでガス欠ならぬ「電欠」の心配をせず、安心して走るには、家庭用電源のようにフル充電に7~8時間もかかる充電器ではなく、30分程度でフル充電できる「急速充電器スタンド」が主要道路沿いのそこかしこにあることが必要で、その普及がEV普及のカギを握る。
急速充電器について、国際電気標準会議(IEC、本部・ジュネーブ)が来年夏をメドとする規格の承認作業を進めている。日本勢はチャデモ協議会設立に先立つ2009年末に、既にIECにチャデモを規格として承認するよう提案した。
GMやVWは「コンボ」開発中
一方、米ゼネラル・モーターズ(GM)や独フォルクスワーゲン(VW)など米独の自動車大手8社は、「コンバインド・チャージング・システム(通称コンボ)」と呼ぶ規格を提案。まだ開発中ながら、昨年末にIECに届け出た。また、EVで日本勢に席巻されることを警戒する中国当局も、昨年春に独自の規格をIECに提案した。
IECは技術的な問題がなければ排除しないスタンスのため、来年夏には3つの規格はいずれも承認される見通し。従って、どこかの規格が勝利して世界中がその規格に合わせなければいけなくなる事態にはならないが、地域ごとに規格の異なる急速充電器が配置されることになりそうだ。
そうなると、EVメーカーは販売する地域の急速充電器に合わせた仕様にする必要がある。日本勢が米独で売るならコンボ仕様に、中国なら中国式といった具合だ。
逆に米独勢が日本で売る場合にも対応を迫られる。実際、2013年にもEVを発売するVWのルドルフ・クレープス執行役員は5月30日に東京で行った記者会見で、日本で販売するEVはチャデモに対応させる方針を表明した。
「地域ごとに違う急速充電器」がEVの普及にどう影響するのは業界関係者も読み切れていないが、統一規格が作られるまでには10年はかかると見られている。日本のユーザーが外国でマイカーを使うことはあまりないが、簡単に国境を越えられる欧州では問題が出る可能性もある。いずれにせよ、消費者を置き去りにしない競争にして欲しいものだ。