発足したばかりの第2次野田改造内閣の目玉とされるのが、防衛相に就任した森本敏・拓殖大大学院教授(安全保障論、71歳)だ。森本氏はテレビ番組のコメンテーターでもおなじみで、野田佳彦首相は、閣僚名簿を発表する会見で「改めて申し上げるまでもなく、安全保障に関する我が国の第一人者のひとり」と紹介。
参院での問責決議を受けて交代に追い込まれた田中直紀前防衛相が国会で「素人」と評されたのは対照的だ。自民党の受け止め方も、これまでとは若干違っているようだ。
外務省退職後に民間研究者としてのキャリア築く
森本氏は防衛大学校を卒業後、航空自衛隊に入隊。その後外務省に出向し、後に正式に外務省に入省している。在米日本国大使館一等書記官、情報調査局安全保障政策室長などを経て外務省を退職した1992年に、野村総合研究所の主席研究員として民間の研究者としてのキャリアをスタート。慶應義塾大学大学院の政策・メディア研究科の非常勤講師などを務めた。
前身の防衛庁長官時代を含めて、防衛相に民間人が起用されるのは初めてだが、ここでいう「民間人」は、「国会議員ではない」という意味。森本氏はどちらかと言えば、いわゆる「民」よりも「官」のキャリアの方が長いと言える。
03年のイラク戦争では米国を支持し、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移転問題では、名護市辺野古沖に移転させる現行の政府案を支持している。日米同盟を基軸に北朝鮮や中国の脅威に対応しようという立場だ。鳩山政権下の10年7月には、
「普天間の謎―基地返還問題迷走15年の総て」(海竜社)
という書籍も出版するなど、普天間問題については、民主党政権に対して厳しい見方をしている。
普天間問題で鳩山氏を批判
例えば10年5月29日の読売新聞に掲載された普天間問題に関する座談会では、
「県外、国外移設を目指す首相の思いを実現しようとすれば、歴代政権が積み上げた日米同盟の根底が崩れる。首相の考え方は非武装中立の色彩が強く、中国に対する脅威感がない」
と鳩山氏を強く非難。加えて、自民党政権時代と比べても政策が劣化したことも指摘している。
「自民党政権時代と決定的に違うのは、沖縄との協議が十分でないことだ。鳩山首相が沖縄を訪問すればいいというものではない」
自民党との距離が比較的近いのも特徴だ。06年に安倍内閣が設置した有識者会議「国家安全保障に関する官邸機能強化会議」のメンバーを務めたほか、麻生政権時代の09年には、防衛相補佐官に就任している。
それだけに、自民党からも、民主党の人材不足を指摘する声をのぞけば、森本氏の起用自体を批判する声は目立たない。例えば、自民党の国会議員のツイッターを見ると、自衛官出身の佐藤正久参院議員は、
「防衛に詳しいまさにプロが大臣に着任した。集団的自衛権等これまでの主張を貫いてもらいたい。委員会で本格的議論をしたい。ただ大臣が選挙を経て選ばれた政治家ではないので、『文民統制』の観点から説明は必要になるだろう」
と、基本的には賛成しているし、山本一太参院議員も、
「森元(原文ママ)大臣なら、佐藤氏の質問は凌げるだろう。が、理論と現実の政策は違う。交渉力や根回し力は未知数だ」
と、「お手並み拝見」といったところだ。