半導体大手のルネサスエレクトロニクスが、従業員約4万2000人の3割近い1万2000人を削減する経営再建計画を策定中で、大リストラに乗り出す。希望退職者への割り増し退職金などのリストラ費用として1000億円超が必要になるが、そのための金融支援(第三者割当増資の引き受け)を、母体である日立製作所と三菱電機、NECに、ルネサスの赤尾泰社長が2012年6月1日に相次いで訪問して正式に要請した。ルネサスは5月28日に、台湾最大手の台湾積体電路製造(TSMC)との提携も発表していた。
日本の半導体企業は「DRAM(ディーラム)」と呼ばれるパソコンなどの記憶装置の国内唯一のメーカー、エルピーダメモリが2月に経営破たんし会社更生法の適用を申請したばかり。ルネサスの経営不振は、かつて世界を席巻した「ニッポン半導体」の落日を象徴している。
「マイコン」の黒字をLSIで食いつぶす
2010年4月に設立されたルネサスは、発足後の12年3月期まで2期連続で最終赤字を計上した。13年3月期も赤字脱却の見通しが明確には立っておらず、大規模なリストラよる事業再編が不可欠となっていた。
ルネサスは昨年の東日本大震災で、「マイコン」と呼ばれるエンジンや電気モーターの制御装置を製造する那珂工場(茨城県ひたちなか市)が被災し、操業がストップ。ルネサスの自動車向けマイコンは世界シェア4割と首位で自動車メーカーに欠かせないだけに、自動車メーカーのサプライチェーン(部品供給網)寸断の主因となった。逆に、存在感を示したともいえ、実際にマイコンはルネサスの稼ぎ頭であり、今も黒字を確保している。しかし、震災での「寸断」以来、自動車メーカーはリスク管理のために調達先の多様化を進めており、現在の地位をいつまで保てるか分からない。
一方、複数の機能を一つのチップに詰め込んだ家電製品向けの「システムLSI(大規模集積回路)」と呼ばれる半導体事業は、納品先の家電メーカーの業績不振や韓国勢の攻勢などもあり、赤字が続いている。ルネサス全体としてみれば、せっかくのマイコンの黒字をシステムLSIの赤字で食いつぶしている状況だ。
日立とNECは支援に強く尻込み
このため、今回のルネサスはマイコン事業を中心に経営を立て直すことになる。国内に19ある工場は閉鎖を含め整理統合することになるが、リストラはシステムLSI事業が中心になる見込み。マイコン事業でも台湾のTSMCに一部生産委託するかもしれない。
主力の鶴岡工場の売却先もTSMCが有力視されている。子会社のルネサス山形セミコンダクタが運営するシステムLSIの主力工場で、従業員は約1300人。最先端の生産設備を誇り、ルネサスのシステムLSI工場としては最大規模。TSMCは半導体メーカーから委託を受ける生産に特化する「ファウンドリー」と呼ばれるタイプのメーカーとして世界最大手だ。
とはいえ、問題は母体3社が金融支援を引き受けるかどうかだが、今のところ視界不良だ。すでに3社は09年、10年の合計で2000億円を出資して支援している。そのうえ、12年3月期に自身が1102億円の最終赤字に沈んだNECからは「一度切り出した事業を支援する余裕はない」(幹部)との声が聞かれる。赤尾泰社長の出身である日立も、ルネサス支援にはやや否定的なスタンス。三菱電機も及び腰だ。
そこをどう調整するのか。取引先銀行を含めた関係者によるギリギリの協議が続くとみられる。