米ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントが、東京都内のオフィスビルや商業施設を投資対象とする不動産投資信託(私募REIT)に参入する。
国内では野村不動産や三菱地所、三井不動産などが相次いで私募REITを立ち上げているが、投信投資顧問会社で、しかも外資系が私募REITに参入するのは初のケース。年金基金などの機関投資家をターゲットに据え、約1000億円を目標に資金を集める。
「安定運用」目指す機関投資家のニーズを見込む
米ゴールドマン・サックス(GS)が手がける「私募REIT」は不動産への投資、運用によって賃料を得て収益を分配するが、J‐REITと違って「非上場」であることがポイント。
GSは東京都内のオフィスビルや商業施設などに投資し、早ければ7月にも最大500億円規模で運用を開始する予定。GSアセットマネジメントが運用主体となり、将来的には1000億円程度まで資産規模を拡大する計画だ。
一般に、J‐REITは銀行借り入れや投資家から集めた資金で不動産を取得、運用して賃料などの収益を分配する仕組み。東京証券取引所に上場しているので、株式と同様に売買される。つまり、株式の配当にあたる分配金のほか、売買益が期待できるわけだ。
REITの分配金の利回りは5%程度と、「安定運用」の国債の利回りが1%にも及ばないなかで、それを大きく凌ぐ。過去、REITの破たんは1例しかなく、投資リスクは意外に低いのは魅力だ。
とはいえ、国内ではGSや不動産会社による「私募REIT」の組成が相次いでいて、どこも年金基金を中心とした、損失を最小限に抑えたい「安定運用」を目指す機関投資家の資金運用ニーズを見込んでいる。
REITに詳しいアイビー総研の関大介氏は、「ボラティリティ(変動性)が大きい市場では年金基金のような機関投資家にはなじまないですからね。(REITは)分配金の利回りはいいわけですから、(GSも)私募(非上場)にすることでボラティリティを抑えて、ターゲットとする投資家を明確にしたのでしょう」と説明する。
日本の不動産に特化した海外REITが「上陸」
REIT市場はリーマン・ショック以降、長く低迷していた。しかし、2012年4月26日にはJ‐REITの新規上場が4年半ぶりにあり、日銀が追加金融緩和による資産買い入れ基金を通じてREITを購入するなどの後押しもあって、ようやく復調の兆しがみえてきた。
そうした中で、みずほ証券の石澤卓志チーフ不動産アナリストは、「電力事情などの不安要素はあるが、外資系投資ファンドによる日本の不動産への投資は拡大傾向にある」と指摘する。
その理由について、石澤氏は「日本の不動産価格はいまがボトムだと考えられていること、また日本の不動産の投資利回りは欧米などに比べて低いものの、資金調達コストも低いので一定の収益が見込めること」をあげている。将来のインフレの可能性を先取りした動き、といった見方もある。
GSに限らず、外資系投資ファンドはリーマン・ショック以降の金融危機で不動産投資を手控えてきたが、みずほ証券によると、2012年に入ってから東京都心の複合ビルを米アンジェロ・ゴードンがオリックス不動産を共同で取得。またドイツのエイエム・アルファが六本木の店舗ビルを取得するなど案件は急増中。
現物不動産ばかりか、日本の不動産に特化したシンガポールのREITが「上陸」したり、J‐REITにスポンサーに名乗りをあげる外資系投資ファンドも増えている。