TPP慎重派と消費増税反対派が重なる
そもそも日中韓の思惑はかなりズレがある。中国はTPPへの警戒感から、「日本をつなぎ留めるためのカード」(通商筋)と日中韓FTAを位置づけていたので、日本のTPP論議停滞で中国の焦りが後退。FTAの内容でも、自国産業保護のため自由化は緩やかに進めたい考えで、野田首相が描く「高いレベル」のFTAとの温度差はくっきり。韓国は、米国やEUなど45か国とFTAを締結済みで、ライバルである日本に対し優位に立っている今のポジションをキープしたいのが本音。だから、中国とのFTAを最優先する方針で、日中韓への関心は低い。
TPP交渉は、参加9か国の協議が続くが、各国の意見の隔たりが大きく、「年内合意という目標が難しくなりつつある」(通商筋)。まだ、交渉参加を決断できない日本にとっては、「各国の協議が進展し、後で入っても意見をほとんど反映できない事態は避けられる」(同)と期待が持てる状況ではある。ただし、日本国内の状況も、6月下旬に参加を判断、つまり参加表明しようという政府の目論見通りに行く見通しは立っていない。
野田首相は6月18、19日の20か国・地域首脳会議(G20)の際にオバマ大統領に交渉参加表明したい意向とされるが、政府が消費税増税にかかりっきり状態なうえ、民主党内のTPP慎重派が、その増税反対派と重なることも、事態を一段と難しくしている。
政府は5月18日、未定だったTPPの対外交渉を仕切る政府代表に大島正太郎・元外務審議官の起用を決めた。大島氏は通商交渉の経験が豊富で、直近まで世界貿易機関(WTO)上級委員を務めていた。「TPPへの意欲を米国にアピールするための人事」(通商関係者)とみられるが、難局打開は容易ではない。