東芝は2012年5月17日、3月末にテレビの国内生産から撤退したと発表した。12年3月期のテレビ事業は約500億円の赤字と経営の足を引っ張っており、コストのかかる国内生産はもはや維持できないと判断した。
海外での生産は継続し、台湾メーカーなどへの生産委託も増やす。かつての計算機のようにテレビが汎用品化したことを象徴する出来事とも言える。ただ、テレビ事業がなお主力のソニー、パナソニック、シャープの家電3社は国内生産を維持する方針で、対応が分かれている。
社長が苦渋の決断を強調
「長い歴史のある深谷事業所(埼玉県深谷市)で(テレビの)生産をやめることには忸怩(じくじ)たる思いがある。しかし経営の重しとなっては(継続は)難しく、(生産終了の)判断をしなければならなかった」
東芝の佐々木則夫社長は経営方針を説明する17日の東京都内での記者会見で、苦渋の決断だったことを強調した。国内最後のテレビ生産拠点だった深谷事業所はテレビの設計・開発とアフターサービスの拠点に衣替えし、雇用は維持する。
佐々木社長は会見でテレビ事業について「2013年3月期はブレークイーブン(収支とんとん)にもっていくが、内部では黒字を目指している」とも述べた。5月8日の2012年3月期連結決算を発表する会見では、久保誠専務が「(2013年3月期の)通期では赤字が残る」としていただけに、社長による事実上の上方修正とも言える。
液晶テレビを組み立てるために使うパネルの種類を半分ほど減らし、液晶テレビのモデル数を絞り込むことによってコスト削減、一気に黒字化に持ち込む決意を表明したと見られている。
実際、東芝はソニーなど他の日本勢がテレビ事業の赤字に苦しむなか、コストの安い外部委託の積極活用などで2011年3月期まで3期連続で黒字を確保しており、「家電の王様テレビ」といえども採算性をシビアに見る東芝らしい結果を残している。
「テレビの次」が見えない家電3社
テレビへの見切りでもっと先を行くのが日立製作所。9月末には最後の生産拠点として岐阜県美濃加茂市の工場で続けている高級テレビの自社生産を終え、すべてのテレビ生産を他社に委託する。
東芝、日立に対し、ソニー、パナソニック、シャープの家電3社はテレビ事業の収益改善策は打ち出しているが、「撤退」までは決断していない。日立、東芝は火力発電所や通信システムといった国家に寄り添う社会インフラ事業が主力。家電3社も社会インフラ事業をやっていないわけではないが、心許ないレベルだ。
今パナソニックやシャープが頼りにしているのは、地道に稼げる冷蔵庫や洗濯機といった白物家電事業で、ソニーは映画や音楽、金融事業だが、いまだにテレビも主力事業の一つ。仮に撤退などすれば下請け企業なでに与える影響が大きいことに加えて「テレビの次」の収益源が明確には見えていないことから撤退には踏み切れないのが実態だろう。
しかし、その間にも汎用品化が進む。赤字を垂れ流すテレビ事業にしがみついても経営を立て直せない可能性もあり、「早晩テレビ撤退の決断迫られる」(国内証券系アナリスト)との見方は根強い。