フェイスブックやツイッターに続く新手のSNSが米国で人気を集めている。画像の共有に特化した「ピンタレスト」というサービスで、既に利用者は1800万人に上るといわれている。
画像を通じて、知らない相手でも自分の趣味や感性と合うユーザーと手軽に「交流」できるのが好評で、日本でも話題になり始めている。
人間関係を気にせず、ストレスなしで楽しめる
美しい風景や有名人の顔、おいしそうな食べ物と大量の画像が画面上に並ぶ。そこから好きなものを選んで、「ボード」と呼ばれる自分の個人ページに保存する。自分が持っている写真をアップロードすれば、他のユーザーがそれを見られるようになる。ピンタレストの基本的な交流方法は、こういったものだ。コルクボードに画鋲で写真を留める、あるいはスクラップ帳に写真をどんどん保存していく、というイメージに近い。
サイト内は「アート」「テクノロジー」「ペット」「アパレル」など32のジャンルそれぞれに、ユーザーから投稿された写真や動画が分類されている。ひとつジャンルを選び、そこにある写真から気に入ったものを見つけたら、画像にカーソルを合わせると表示される「リピン(repin)」というボタンを押して個人ページに取り込める。ボードは追加できるので、写真の種類ごとにボードを使い分けることも可能だ。写真にはコメントを書き込んだり、フェイスブックなど他のSNSと連動したりもできる。
これまでも、「フリッカー」のような画像投稿サービスは存在していた。だがピンタレストの場合、自分の投稿写真を見せるだけでなく、他のユーザーの写真を自分のボードに取り入れることができるため、単に「アルバム」としてだけではない活用方法が考えられる。例えば旅行が趣味の人は、自分が訪れて撮影した地の写真を張り付けるだけでなく、「トラベル」ジャンルに投稿された世界各地の旅の写真を閲覧しながら、行ってみたい場所を集めてボードにコレクションする使い方もあるだろう。感覚が似ているユーザーを「フォロー」することで、自分の趣味と合った画像を見つけやすくなる。
最新のSNS動向に詳しいソーシャルメディア研究所の熊坂仁美氏に取材すると、「自分の世界に浸って、興味や関心を追求できる点が特徴」とピンタレストを評する。フェイスブックやツイッターでは、実際の知り合いとの「交流」やテキストによるコミュニケーション中心で、ネット上の人間関係が意外なストレスを生むことがあると指摘。しかしピンタレストは基本的に「テキストいらず」のやり取りなので、煩わしさから解放されやすいようだ。
女性の心をつかみ、企業も注目
熊坂氏によると、米国では主婦層を中心に女性が利用者全体の8割を占める。料理のレシピやファッションといった分野で写真をコレクションする人が多いそうだ。検索して探し出すのではなく、画像から画像と渡り歩くうちに自分の感性に合ったものが見つかる「発見の楽しさ」が、特に女性の心をつかんでいるのだろう。「ウインドーショッピングと似ています」と熊坂氏は説明する。
趣味の範囲にとどまらず、仕事上で活用される事例も出てきた。例えばネイリストが、客に対してネイルアートを集めた画像を見せる、という具合だ。言葉で説明するよりもビジュアルに訴えた方が理解してもらいやすいファッション関係の職種などで、使い方の幅が広がるかもしれない。
米国だけでなく日本でも徐々に広まり始めてきた。40代の男性ユーザーは、「ユニークな画像を投稿すると数秒後に海外の利用者から『repin』されることがあり、うれしい」と話す。企業でも、資生堂がメーキャップブランド専用のピンタレストページを開設し、商品やイメージ写真を公開している。
2012年5月17日には、楽天がピンタレストへの出資を発表した。三木谷浩史会長兼社長は5月24日付「日経ビジネス」(電子版)のインタビューで、出資の検討時期について「その場ですぐにやるって決めました」と明かした。楽天に与える影響として「グラフィックスのパワー」を挙げ、「発見する喜びを感じながらショッピングを楽しむ」時代がくると予測、シナジー効果を期待する。ピンタレストに女性会員が多いことも、同じく女性利用者が半数以上を占める楽天のオンライン市場と相性がよい点を強調した。
いま日本で利用するには、英語版の英語の説明文を読んで操作する必要がある。熊坂氏は「楽天主導で、ピンタレストの日本語版制作が進むのではないか」と今回の出資に注目する。日本版ができて、楽天ユーザーとの連携が進めば、日本でのピンタレスト利用者も増えていく可能性は高い。「今夏あたりから日本でも人気が上昇していくのではないでしょうか」と考える。