タレントの稲川淳二さん(64)が、インタビュー記事で重い障害を持った次男について語った。障害に絶望し、次男を殺したいと思ったこともあったという衝撃的な内容で、反響を呼んでいる。
記事は2012年5月24日付けの朝日新聞のオピニオン欄に掲載された。現在は怪談の他に、バリアフリーの講演活動などを行っている稲川さんが、障害を持った次男が1986年に生まれてからのことを振り返っている。
次男の鼻先数センチで手が震える
当時、仕事も軌道に乗り、家族も幸せだったが、生まれてきた次男はクルーゾン氏症候群という病気を抱えていた。命に別状はないものの、頭の骨に異常があり、手術が遅れると手足に麻痺が出る可能性があると言われ、頭が真っ白になったという。
次男は生後4か月で手術を受けることになり、手術前のある日、病院に行った。次男を見ていた妻が「あんた、ちょっと見てて」と少し席を立ったときに、稲川さんと次男二人きりになった。
そして「本当に許せないことですが、うちの子のことですから、こんな話をどうか許してください」と前置きし、「私はね、次男に死んで欲しいと思う気持ちがあった」と語る。
次男がいたら、将来妻や長男も大変な思いをする。どういう病気なのかも当時はよく分からなかったし、病室には二人以外誰もいない。「じゃあ今、自分で殺しちゃおうかな。その代わり、ずっとこいつに謝り続けて生きればいいんだ」と思い、次男の鼻をつまんで呼吸を止めようとしたが、鼻先数センチのところで手が震えた。どうしようもできず、そこに妻が戻ってきたという。
「どんな怪談よりも緊張感がある」「泣ける」
その後、次男の手術は成功した。頭に包帯を巻かれ、腕や足にチューブを刺された次男を見たときに、たまらなくなって「由輝!オレはお前の父ちゃんだぞ!」と初めて名前を呼んだ。それまで自分の中で次男の存在を抹消しようとしていたといい「自分が望んだ子どもなのに、オレは命を否定した。(中略)何て最低な父親なんだと。……。思いました」と語っている。
この経験が機会となり、テレビのお笑いの仕事をやめた。身内に不幸があっても芸能人は笑っていなければいけない。「自分を殺してまで笑いの仕事をするのはやめよう」と思った。そして、現在の障害者支援の活動にも繋がっていく。「世の中に要らない人、要らない命なんてないんです。それだけは、分かってください」と結んでいる。
記事ではこのほか、障害福祉サービスの利用料の1割を障害者自身が負担する「障害者自立支援法」の廃止を民主党が見送り、改正に止めようとしていることについても、障害者の親の立場から語っている。
実の息子を殺そうとまで思ったという稲川さんの告白はネットでも話題になりツイッターに多くの呟きが寄せられた。稲川さんの「怪談のおじさん」以外の面を初めて知ったという人も結構多いようだ。「人間の禍々しさを自分の身をもって丁寧に切実に語っているようで、どんな怪談よりも緊張感があった」「泣ける」「通勤電車で読んでいたので、新聞で顔隠し涙ふくのに苦労した」といった感想が寄せられていた。