筆者のところに、先日東電の電力料金値上げについてテレビの取材があった。基本は本コラムで書いた(2011年5月12日配信「今こそ東電を『解体』せよ 送電網売却し賠償原資に」や12年2月23日配信「東電のリストラ『世間の目では不十分』 法的整理なぜできないのか」の通りだ。
東電は債務超過なので破綻会社である。そうであれば法的整理をして、株主、債権者、経営者、従業員すべてステークホルダーに負担を負わせて、事業を継続しながら会社を解体し、関連子会社や不要資産を売却するのがセオリー。そうすれば、5兆円程度はステークホルダーの負担になって、利用者負担にならない。
原発再稼働めぐり政府へ不信感
5兆円といえば、東電が料金10%値上げを10年間継続する金額に相当するので、法的整理をすれば、電力料金値上げを回避できる計算になる。と同時に、東電を解体する際に、送電会社や各種の発電会社を分離できる。そうなれば、発送電分離も行え、発電会社の新規参入を促し電力自由化になって、電力料金下げになる可能性もある。
原子力発電については、国が賠償責任とともに購入することで、国の責任の明確化が図れる。それは、東電という民間会社に原子力発電という過剰な負担を負わせることも回避できる、という話をした。このポイントは、法的整理というフェアな方法をとって、(1)徹底リストラ・国民負担の最小化、(2)電力自由化で利用者利便向上、(3)原発国有管理で責任の明確化という一石三鳥である。テレビは時間の制約もあるので、どこまで放送されるかわからないが、担当者はシンプルでわかりやすいといっていた。
ここでは(3)に絞って書いておこう。(3)を行うにあたり、東電だけでなく全国の原発も買い取ることも考えられる。大飯原発の再稼働をめぐって、朝日新聞が5月19、20日に実施した世論調査によれば、原発に対する政府の安全対策を「信頼している」は21%にとどまり、「信頼していない」が78%にのぼった。大飯原発の再稼働については、反対が54%で、賛成の29%を上回った。 結局、政府の安全対策を信頼していないので、原発再稼働に反対だというのが国民の声になっている。
ところが、政府の説明では、まず安全対策を政治判断とした。どうして原発の安全性について素人の政治家が政治判断できるのかという根本問題で、多くの国民は納得していない。その上に、関西の電力需給について政府は原発再稼働がないと15%もの電力不足に陥ると言い出した。
政府は、民間に押しつけノラリクラリ
この点について、需要を過大に、一方で供給を過小に見積もっているのではないかという疑問が出ていて、ここでも国民の納得は得られていない。さらに、政府からは原発再稼働がなければ電気料金が上がるという声が出始めた。藤村修官房長官は「原子力を止めれば、燃料コストの増加で電気料金上げが避けられない」といった。
このように理由がコロコロと変わる政府の説明ぶりはきわめて不味い。安全性について国民を説得しておけば、電力需給も電力料金値上げも理由とする必要はなかった。
説明がコロコロ変わるのは、原発を電力会社の所有として政府は直接の責任当事者になっていないからだ。政府は原発の責任を民間会社に押しつけてノラリクラリとしている。もし、徹底的に安全対策をしようとすれば、例えば、外国による第三者的な調査を依頼するだろう。それくらい今の国民は原発の安全性について疑問をもっている。
東電を実質国有化とかいっているが、東電を法的整理して原発だけを国有化すべきだ。その上で、安全対策を国の責任で行うべきだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣参事官、現「政策工房」会長
1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2005年から総務大臣補佐官、06年からは内閣参事官(総理補佐官補)も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。著書に「財投改革の経済学」(東洋経済新報社)、「さらば財務省!」(講談社)など。