領土・領海事項は中国で最も重要
中国事情に詳しいノンフィクション作家、安田峰俊氏は「環球時報」について、「中国メディアの中でも『タカ派』で、勇ましいことを言いがち」と評する。それでも、北朝鮮へ「苦言」を呈する論調は珍しいようだ。
今回の漁船拿捕は、中朝の境界問題と密接に絡んでいる。「領土や領海に関連する事項は、中国で最重要と位置付けられます」と安田氏。自国のテリトリーに何らかの影響を及ぼす相手に対しては、それがたとえ友好国の北朝鮮であってもピシャリと注意しておく必要がある、というわけだ。
とは言え中国政府も、尖閣問題の際に日本を激しく非難したのと同じ調子で、北朝鮮に対するわけにはいかない事情がある。北朝鮮は地政学的に対日、対米関係上の緩衝地帯としての役割があるからだ。そこで環球時報の社説を「利用」して、北朝鮮にメッセージを送るのを中国当局が容認した、とも推測できる。
中国メディアの「意外」な批判を、北朝鮮はどう受け止めるのだろうか。北朝鮮問題を専門とする韓国紙の記者に取材すると、両国間で今回のような境界線をめぐって騒動が起きると「中朝関係はむしろ強化される」と話す。ただしこれは「相互愛」が増すわけではなく「戦略的な理由」からだという。北朝鮮側にとっても、国際社会で貴重な「味方」である中国との関係が悪化しては困るわけだ。
さらに韓国紙の記者は、
「中朝は『強固な友情』で結ばれていると思われていますが、実際はそうではありません。過去には互いを腹立たしく感じていたこともあります」
と指摘。2011年12月に死去した北朝鮮の故・金正日総書記はかつて「中国人を絶対に信頼してはならない」と口にしていた、という話まであるそうだ。