被災地では、長期にわたる仮設住宅での生活によって体調不良やストレスを感じている方が多くいらっしゃいます。難民を助ける会のスタッフが福島県の須賀川市かみきた仮設住宅を訪問した際、自治会長から「何か皆の気が晴れるような、楽しいことはできないかしら?」という相談を受けました。そこで、「お花見」や「こいのぼり」といった季節の行事にちなんだイベントを実施することにしました。
お花見をしながらバスの車内で大合唱
4月15日と22日には、福島県須賀川市の社会福祉協議会からバスを出していただき、市内の桜の名所を巡りながら、移動中のバスの車内では合唱を楽しむ「うたごえバスツアー」を行いました。須賀川市内の仮設住宅に暮らす方々が、15日に35名、22日に30名ご参加くださいました。車内にキーボードを設置し、子どもからお年寄りまで誰もが知っているような懐メロや童謡を、ピアニストの山崎明子さんの伴奏にあわせて合唱しました。
例年よりも少し開花時期が遅かったため、桜を見ることができた場所は残念ながら少しだけ…でも、岩瀬牧場などの桜の名所を散策したり、福島空港公園でお弁当を食べたり、大いに楽しんでいただきました。バスツアーに参加された住民の方々からも社会福祉協議会の方からも、「これからも恒例の企画にしてほしい」と喜びの声をいただきました。
みんなで描いた170匹のこいのぼりが青空のもと泳ぎました
4月29日には、福島県相馬市柚木(ゆぬき)高齢者等サポートセンターで、「地域みんなで元気になろうプロジェクト」を行いました。難民を助ける会では、2011年7月から岩手と宮城でこのプロジェクトを実施しています。被災者の方々が心身ともに健康を回復し元気に生活できるよう、マッサージや健康体操、カウンセリングなどを取り入れた地域交流イベントを行ってきました。今回は福島県では初めての開催です。開催日が子どもの日直前ということで、みんなで手作りのこいのぼりを泳がせることにしました。
鯉の形をした白地の布に、ペンでうろこやメッセージなどを描き、オリジナルのこいのぼりを作ります。相馬市内の小学生や、障害者施設の方々、日本に出張に来ていた難民を助ける会のアフガニスタン人スタッフに事前に絵とメッセージを描いてもらい、たくさんのこいのぼりが集まりました。
さらに当日、朝10時ごろから会場に集まり始めた子どもたちに声をかけて、白地のこいのぼりに絵を描いてもらいました。子どもたちはみんな、一匹描き上げたあとも嬉しそうに「まだ描く!」とペンを離しません。その場で5匹ものこいのぼりを描いてくれた子もいました。カラフルに彩られたこいのぼりは、難民を助ける会の職員の手を借りながら、子どもたちが自分の手でロープに吊るしました。お孫さんと一緒にやってきた女性は「昨年は震災があって、こいのぼりを揚げるどころじゃなかった。今年こうして見られて嬉しい。子どもたちも喜んでいます」と目を細めていました。
「みんなで一緒に歌うのがこんなに楽しいなんて」
また、会場内では仮設住宅に住む皆さんに、全国の方々が作ってくださった「手作りトートバッグ」をお届けしました。手作りのトートバッグに添えられたメッセージを見て、「こうやって一人ひとりに向けて書いてくれたのね。心のこもったメッセージ嬉しいなあ」と、皆さん笑顔で見ていらっしゃいました。柚木応急仮設住宅サポートセンターには広いお風呂もついているので、「お風呂に来るときにちょうどいい大きさで嬉しいわ」という声も。どのトートバッグも丁寧に作ってあり、ポケットの位置にもそれぞれ工夫がしてあって使いやすそうです。
午後にはオペラ歌手の坂野由美子さん、浅原孝夫さん、うたごえバスツアーでもご協力いただいたピアニストの山崎明子さんによるミニコンサートが行われました。本格的なオペラの楽曲を楽しんだ後は、皆さんで童謡を一緒に歌う「ふれあいコンサート」も開催。参加された約60名の住民の方々ははじめは少し緊張されている様子でしたが、「茶摘み」や「ふるさと」などの童謡を歌手のおふたりのリードにあわせて大きな声で歌っていらっしゃいました。コンサートのあと、参加された方は、「ふだん大きな声で歌う機会なんてないから、とても楽しかった」など、嬉しそうに話してくださいました。
どちらのイベントも是非また開催してほしいという喜びの声が多く聞かれ、皆さんを心身共に元気づけることができたのではないかと思います。難民を助ける会はこれからも地域の方々から寄せられる声を大切に、福島県での活動を継続していきます。
(難民を助ける会 東京事務局 浅野武治)
認定NPO法人 難民を助ける会
1979年、インドシナ難民を支援するために、政治・思想・宗教に偏らない市民団体として日本で設立された国際NGOです。
2011年3月11日に発生した東日本大震災を受けて、地震発生当日より活動を開始。宮城県仙台市と岩手県盛岡市に事務所を構え、緊急・復興支援を行っています。
活動にあたっては、特に支援から取り残されがちな障害者や高齢者、在宅避難者、離島の住民などを重点的に支援しています。食料や家電などの物資の配布、炊き出し、医師と看護師による巡回診療など、多面的な活動を続けています。
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