フランスではオランド大統領のもと、2012年5月16日(現地時間)に新内閣が発足した。「女性を半数に」という公約どおり閣僚34名のうち女性が17名を占めた。
顔ぶれを見るとヨーロッパ系だけでなく、アフリカ系、アジア系といったさまざまな人たちが集まっていることがうかがえる。実際、フランスのルモンド紙(5月16日付)が報じたところによれば、仏領ギニア出身のクリスチャーヌ・トビラ氏をはじめ、モロッコやアルジェリアといった旧植民地にルーツをもつナジャット・ヴァロー=ベルカセム氏、ヤミナ・ベンギギ氏が確認できる。
生後半年で養子に出され、エリートコースへ
そんななか、アジアからみてとりわけ興味深いのは、韓国に出自をもつフルール・ペルラン氏(中小企業・イノベーション・デジタル経済担当大臣)が入っていることだ。
公式サイトによれば、ペルラン氏は1973年に韓国のソウルに生まれ、生後6か月でフランスに養子に出されたという。専業主婦の母と原子核物理学を専門とする父のもとで教育を受けた。相当の秀才だったようで、フランスのグランゼコール(日本の教育課程では大学に相当するが、大学以上にネームバリューのある名門学校群)の一つであるESSEC(エセック経済商科大学院大学)で経済学を学んだ。その後、Sciences-Po(パリ政治学院)から、オランド大統領の母校でもあるENA(国立行政学院)に進む。フランスの高級官僚・政治家における典型的なエリートコースだ。今回入閣した女性の中では、唯一のエナルク(ENA出身者)とみられる。
卒業後は監査院で働いたのち、2007年の大統領選の際にロワイヤル氏の選挙陣営で広報を担当した。オランド氏の選挙陣営に合流したのは2011年の秋ごろで、デジタル産業・経済を担当していたため、大統領選の前後からルモンド紙(5月5日付)やフィガロ紙(5月9日付)の報道で、入閣の有力候補として名があがっていた。本人は入閣を受け、17日のツイッターで「権限の引継ぎ、最初の閣議...勤勉な一日ね」とつぶやいている。
人権意識の高いフランスでは、政治の世界でも「男女平等」が進んでいる。2000年6月には「パリテ法」とよばれる法律が成立した。パリテ(parite)とは、同等、同一という意味だ。たとえば国民議会選挙では政党や政治団体に所属する候補者の男女比を同率(男女同数)にするとされている。そんなこともあって、今回の「閣僚の半数が女性」にもフランス国内では違和感は少ない。
今後、ペルラン氏をはじめとしてさまざまな背景を持つ人々が政治の中核で活躍していくことになるが、いくら自由の国といえど、移民や他国からの養子という出自で閣僚になれるのかという疑問は残る。問題になるのは国籍の有無だが、フランス政府の公式サイトによれば、移民やフランスで出生した外国人の子供には、居住期間など一定の条件をクリアすればフランス国籍が付与される。先にあげたヴァロー=ベルカセム氏やベンギギ氏は、この条件をクリアして、フランス国籍をもっているというわけだ。また、フランスで育つ養子にはフランス国籍を与えるという原則もあるため、ペルラン氏もフランス国籍をもっており、入閣に際して問題はないようだ。
日本から見ると、ちょっと驚くような仏新内閣だが、EUの経済不安にどんな手腕を見せてくれるだろうか。