昨年に続く 2回目の「忘れられない看護エピソード」作文入選作品の表彰式が「看護の日」の2012年5月12日、東京・表参道の日本看護協会で行われた。厚生労働省と同協会の主催で、脚本家の内館牧子さん、俳優の森本レオさんらが応募2952作品から選んだ、一般部門、看護職部門各11作品が発表された。
東日本大震災がらみの作品も
最優秀賞は、一般部門が愛媛県・森田欣也さんの「楽しい話とすてきな笑顔と安心を」、看護職部門が埼玉県・佐々木敦子さんの「伝わる瞬間」。
森田さんは18歳の時、頸椎骨折で体の自由、生きる希望を失った。 7年も入院、四肢まひで自宅療養中、訪問看護師が毎回、楽しい話をしてくれ、ある日、「俳句を作ってみない?」と誘われた。俳句をほめられ、雲の形、植物や雨の匂い、虫の声にも気づかせてくれた「心の訪問看護」への感謝を綴った。
佐々木さんは海外で出産、子育てをした。帰国時に、息子が髪飾りをひっぱったのでぶら下がってきた。そのとき、昔、同じようなことがあったことを思い出した。ケア中のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が佐々木さんに何かを伝えようとしたが、文字盤通訳の奥さんも理解できない。患者はイライラ。やがて、佐々木さんのヘアピンが、目の前にぶら下がっていることに患者が気づいて、それを伝えたかったのだとわかり大爆笑した。海外暮らしで言葉が通じない体験を重ねて、伝える大切を実感したという。
内館牧子賞は一般部門が奈良県・中井雅博さんの「靴音」、看護職部門は福井県・徳田のぞみさんの「二度目の戴帽式」だった。中井さんは、祖父に付き添って病院で寝泊まりしていた夜、靴音が響き、回ってきた看護師との会話を、徳田さんは母の看取りの思い出をテーマにした。
一般部門は本人や家族の入院時の感謝が多い。自分が教師と知った看護師の求めでいろいろ教えたが、後でやる気を引き出す方策と気づいた話、無菌室内の息子のため誕生日のケーキと花束の絵を描き、歌ってくれた看護師など。
看護職部門では、救護所へ薬をもらいにきた男性が、悪性リンパ腫でありなから仮設住宅の風呂設営を手伝っていたと知った驚き、2時間前に入浴介護をした患者が津波で流され、自分が一緒だったら助けられたのか、一緒に流されたのかと考える看護師など、東日本大震災がらみの作品もあった。
作品のパネルを並べた「忘れられない看護エピソード」展は6月28日まで日本看護協会内で。入場無料。
(医療ジャーナリスト・田辺功)