「何千件の削除依頼」はIHCが送ったもの?
西村氏によると、警察当局からメールで送られてきたと認識している削除要請は2件で、いずれも対応済みだという。一方、報道された「何千件の削除依頼」については「警察が送ったと誤読するように記事に書かれていますね」と指摘。実際の送信主はIHCだとしたうえで、その運営団体が「財団法人インターネット協会」である点に触れた。そのうえで「日本は、合法か違法かの判断は裁判所が行うことになってますので、財団法人が情報を違法と決めることは出来ません」と続け、最後に「合法の可能性もある情報の削除依頼を財団法人が不適切な手段で送って、対応されなかったというだけ」と主張した。
現在の2ちゃんねるの管理人は、西村氏が2009年に譲渡したとされるシンガポールの「パケットモンスター」という会社だ。こちらにも削除要請のメールが送られた可能性もあるが、同社は実体のない「ペーパーカンパニー」との報道もある。ITジャーナリストの井上トシユキ氏は、「仮に警察当局がパケット社に5000件もの削除要請を出したとしても、きちんと対応できる組織なのかは疑問。存在自体に謎が多い」と首をかしげる。
確かにパケット社は不明点が多い。TBSの5月11日のニュース番組で、記者がパケットモンスターの登記上の住所を訪ねるとそこに事務所はなかった。さらに役員とされる男性に取材すると、「2ちゃんねるのことは何も知らない」と答えている。
宙に浮いたままの5000件を超える削除要請をどうするのか。J-CASTニュースの取材に対して警察庁は、「引き続き削除をしてもらうよう依頼していく」と話す一方で、悪質な度合いが高いものは厳しく臨む姿勢を示した。だが西村氏の理屈は、書き込まれた情報が違法だと判断する立場にないIHCからの削除要請には応じる必要がないと解釈できる。確かに2012年3月30日に改訂されたIHCの最新の運用ガイドラインを見ると、管理人への依頼は「法的な根拠に基づくものではない」ため、削除の実施はあくまで任意であり、対応しなかったことを理由に管理人が法的な責任を問われるわけではないと明記されている。
「しばらくは警察にとって歯がゆい状態が続くでしょう」と、井上氏は予測する。