トラックメーカー大手のいすゞ自動車が、米ゼネラル・モーターズ(GM)と提携強化に向けて交渉に入ることが明らかになった。協議の進展次第では、資本提携に踏み込む可能性もある。資本提携なら2006年に解消して以来となる。
ただし、いすゞとは独フォルクスワーゲン(VW)が提携交渉をしているほか、トヨタ自動車も5.9%出資するなど、大手メーカーが複雑に絡み合っており、どんな再編劇に発展するのか注目されている。
日経の先行報道を各社が追いかける
連休中に日本経済新聞が「GM、いすゞに出資交渉」との大見出しで1面で大きく報じた。他紙もニュアンスの違いはあるものの、「GMが出資を打診している」というところまでは、ほぼ共通して追随した。関係者によると、業績が上向き資金に余裕の出てきたGMは、今後の成長が見込める東南アジアを得意とするいすゞに強い関心を持っているという。
結果的に報道を受ける形になったいすゞの5月10日の決算会見。細井行社長はGMとの資本提携について「必要性がないというか、株を入れる必要を感じない」と慎重な姿勢を見せた。一方で、従来の業務提携の範囲を拡大する協議は「あると思っている」と意欲を示すのも忘れなかった。他方、VWについては「(資本提携は)希望していないが、業務提携の話自体は続いている」と述べた。
「交渉上手で一筋縄ではいかない」(自動車大手)ことで知られる細井氏のこと。会見での公式の言葉を額面通りに受け取っていいのか、図りかねるところもあるというのが関係者の受け止めだ。
新興市場での成長力が魅力
ところで、いすゞとGMの関係は1971年の資本提携開始にさかのぼり、長く深い。GMはいすゞのディーゼルエンジン技術を高く評価し、いすゞはその開発・製造者としてGMと共存共栄してきた。1990年代以降、いすゞが経営危機に陥った際にはGMが助け船を出し、一時はいすゞへの出資比率が49%にまで上がった。しかし2000年代にはGMが経営危機に陥り、2006年に全いすゞ株を手放した。
一方、トヨタはその2006年にGMに代わるように5.9%を出資。しかし、リーマン・ショックなどから、今日にいたるも具体的に合意した協業内容がないどころか、協議自体が凍結に近い状態だ。
VWとは2010年から提携協議をしているが、こちらも特段の成果がないまま、ずるずる時間ばかりが経っている。
こうして見ると、いすゞを中心に「世界のビッグ3(GM、VW、トヨタ)」が提携交渉相手として置かれている状況でもある。もっと言えば、いすゞがビッグ3を「手玉に取っている」のかもしれない。
トラックメーカーというと地味な印象だが、いすゞは「ピックアップトラック」と呼ばれる乗用車とトラックが一体となったような新興国や北米で人気の車も得意。また、ピックアップトラックを含めた商用車のシェアはタイで1位、インドネシア3位と企業としての成長力は魅力的。経営危機を克服し有利子負債もピークの3分の1以下の2000億円台となり、「抱え込むリスク」もない。
それだけに世界のビッグ3といえども提携交渉はいすゞが優位。細井社長を中心としたグローバルな駆け引きがしばらく展開されそうだ。