作家の吉村達也さんが2012年5月14日、胃がんのため死去した。60歳だった。数々のミステリー小説で知られる吉村さんだが、公式サイトに死後掲載された文章が話題を呼んでいる。
吉村さんは一橋大学卒業後、ニッポン放送に入社。「オールナイトニッポン」のパーソナリティを務めたこともあった。その後、扶桑社在職中に作家デビュー。代表作に「朝比奈耕作」シリーズなどがあり、ミステリーファンに広く親しまれていた。
「みなさん、こんにちは。長らくごぶさたしておりました」
死去した14日に、公式サイトに「訃報のお知らせ」という文章が掲載された。
「みなさん、こんにちは。長らくごぶさたしておりました。突然ですが、私はこの度、死んでしまいました。なお、QAZの正体、魔界百物語の真相、私の葬儀の段取りなど、詳細については後日お知らせ申し上げます」
というものだ。遺言で故人自らが即日訃報を伝え、作品の今後について説明している。
「魔界百物語」というのは2011年に、100巻まで続けるという触れ込みでスタートした新シリーズ。現在3巻まで発売されている。「QAZ」というのはそこに登場する謎の殺人鬼の名前だ。
犯人の正体明かさずに死ぬのが心残りだった
シリーズのプロデューサーを務めていたノアズブックスの梶原秀夫さんによると、吉村さんは4巻執筆中の4月下旬に入院。がんだということが分かり、そのまま亡くなってしまったが、死の一週間前、自分の訃報を伝える上記の文章を梶原さんに託していた。
「既にパソコンを打てる状態ではなかったので、レポート用紙に書かれたものを受け取りました。『QAZ』が登場するシーズン1は5巻で終わる予定で、全体の構成も出来ていた。正体を明かさずに死ぬのが心残りだと話していました。どうやって明かすかは今後遺族と相談して決めます」
吉村さんは生前もマジックで周囲の人を驚かすのが好きだったという。
吉村さんの訃報と遺言はネットでも話題になり、ツイッターでは、「最後の最後までトリックマスターだったようで。お悔やみ申し上げます」「ミステリー作家の最後の作品としてこれ以上凄いものがあるだろうか」といった書き込みが寄せられていた。