ヤフーのCEO(最高経営責任者)に2012年4月1日、宮坂学氏が44歳の若さで就任した(6月21日に代表取締役社長を兼務予定)。創業メンバーで前任(社長兼CEO)の井上雅博氏(55)から、10歳以上若返った。新CEOのミッションは、宮坂氏自身が「スマホ・ファースト」と言うように、世の趨勢に合わせて従来のパソコン中心から携帯端末向けに事業の重点をシフトしていくことだ。新勢力が次々と現れるネットの世界で成長を保てるかは「スマホ・ファースト」ができるかどうかにかかっている。
好決算だが課題も
ヤフーは4月24日、2012年3月期連結決算を発表した。最終利益は前期比9%増の1005億円と、15期連続で最高益を更新し、その意味では好決算ではあった。しかし、子細に内容を吟味するとヤフーの抱える課題が浮かび上がる。
2011年度の最終四半期である2012年1~3月期に、ヤフーのインターネットサイトの閲覧件数に占める携帯端末の比率は23%に上った。しかし、ヤフーの広告収入に占める携帯端末の比率は1割にとどまり、パソコン依存体質が鮮明だ。日本の消費者、特に若年層を中心にスマートフォンなどの携帯端末を通じてヤフーのサイトにアクセスしているのに対し、広告需要を取り込めていないのが今のヤフーの現実と言える。
この「パソコン中心体質」がヤフーの抱える課題だったために起きたトップ交代とも言える。何しろ前任の井上氏はスマホを使いこなすどころか、携帯電話の着信にもろくに出ないで「ケータイは自分でかける時のもの」と言ってはばからない。言わば「普通の50代のおじさん」だった。
1990年代半ばに世界を席巻した米マイクロソフトのパソコンソフト「ウインドウズ95」の普及と歩調を合わせてパソコンとともに成長したヤフー全盛時代には、井上氏が日本のネット業界をリードしたのは間違いないが、上場間近の米SNS(コミュニティ型のWebサイト)大手「フェイスブック」の躍進に見られるような日進月歩の業界にキャッチアップしているかと言われると、首をかしげざるを得ない面もあった。
成長に「曲がり角」感も
また、過去には売上高と営業利益が2桁成長を続けていたヤフーだが、2012年3月期はそれぞれ3%台の伸びのとどまっており、成長に「曲がり角感」が出ているのも事実だ。
こうした中で、宮坂CEOが今後、どういう成長戦略を描くのは必ずしも明確ではない。4月24日の決算発表会見では「スマホファースト、パソコンセカンド」と、ざっくりとしたビジョンは語ったものの、具体策には踏み込まなかった。そのためか、翌25日の株価は下落率が一時3%を超え、「成長戦略が見えず失望が広がった」(国内証券大手)との声が聞かれたほどだ。
一方、ヤフーは決算発表に合わせて、6月21日の定時株主総会に提案する取締役人事も発表した。5人の取締役のうち、親会社のソフトバンク出身者が従来の孫正義氏1人から、宮内謙氏(ソフトバンク取締役)らを含めた3人に増える。「スマホシフト」に向けてヤフーを変えるための経営刷新とも見られ、若き宮坂新CEOに、結果を出すために与えられる時間は少ないかもしれない。