東京急行電鉄は2012年4月26日、東京・渋谷駅東口(東京都渋谷区)に駅直結の高層複合施設「渋谷ヒカリエ」を開業した。初日には計約20万人が訪れるほどの大盛況だった。
渋谷ヒカリエは渋谷駅周辺再開発事業の第1弾として位置づけられ、今後、各種の大規模再開発事業が始まる。「若者の街」として定着してきた渋谷が激変する可能性もある。
ヒカリエのコンセプトは「大人の女性呼び戻す」
渋谷ヒカリエは、旧「東急文化会館」の跡地に建設された。商業施設、文化施設、オフィスで構成され、地上34階地下4階、延べ床面積は約14万4000平方メートル。商業施設は、東急百貨店が運営する「ShinQs(シンクス)」で、約200のテナントが出店。文化施設の目玉は、本格的ミュージカルを上演できる約2000席の劇場「東急シアターオーブ」(開業は7月18日)で、こけら落としには米ブロードウェーのミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」の48年ぶりの来日公演が予定されている。
渋谷ヒカリエの大きなコンセプトは、渋谷に大人の女性を呼び戻そうというものだ。現在の渋谷は若者向けファッションビル「渋谷109」に象徴されるように、ヤングファッションの一大拠点とのイメージが強い。若者の最新トレンドの発信拠点として知名度は高いものの、20代後半~40代の女性からは「渋谷には買い物する場所がない」との不満が少なくなかった。
東急はこうした状況を受け、大人の女性が買い物を楽しめるように、「シンクス」には自然素材の化粧品をはじめ、自分らしさを大切にする大人の女性が好むショップをそろえた。ファッションや雑貨、食品などジャンルは幅広いが、商品は厳選しており、渋谷初登場のテナントは7割を越える。
渋谷駅ビルの再開発など大規模事業が続々
この渋谷ヒカリエの開発は、渋谷駅周辺再開発事業のリーディングプロジェクトとされている。今後、渋谷駅ビルの再開発や、これまで「非常にわかりにくい」とされた駅構内を整備する機能更新事業、東急東横線渋谷駅の地下化などの大規模事業が続々と進められる予定だ。東急東横線は今年度中に東京メトロ副都心線との相互乗り入れも始まる。
渋谷を「本拠地」と位置づける東急にとって、渋谷を若者の街から脱皮させ、幅広い年齢層にとって魅力ある街に作り直し、多くの人を呼び込むことが再開発事業の最大の狙いだ。メトロとの相互乗り入れにより、池袋や新宿など他都市に客が流れる可能性もある反面、新たな客を招き入れる大きなチャンスともなる。一方、少子高齢化が急速に進む中、若者の力に頼るだけで、渋谷を盛り上げるには将来的に限界があるのも事実だ。
東急電鉄の野本弘文社長は渋谷ヒカリエ開業前の記者会見で、「渋谷を大人はもちろん、小学生もシニア層も安心して快適に来てもらう街にしたい。渋谷を日本で一番訪れたい街にしたい」と語った。渋谷ヒカリエはあくまで第一歩。渋谷を老若男女でにぎわう場にする壮大な計画は今後が正念場ともいえる。