韓国への対決姿勢を強める北朝鮮が行っている、全地球測位システム(GPS)への妨害電波への発信が「実害」をもたらし始めた。これが原因で日本発の飛行機が着陸をやり直していたことが判明、「一歩間違えれば大事故につながりかねない危険な状況だった」との指摘も出ている。
直後に無人偵察ヘリが墜落して死者も出ており(韓国政府は妨害電波との関連を否定)、「北朝鮮に対して弱腰だ」といった批判が噴出している。
妨害電波の発信機はロシア製?
実は、北朝鮮によるGPSへの妨害工作が取りざたされたのは、今回が初めてではない。北朝鮮はトラックに載せて運べるタイプの妨害電波発信機をロシアから購入しており、半径50~100キロメートルの範囲にわたってGPSに障害を与えることができるという。この事実は、韓国の情報機関が得た情報として金泰栄(キム・テヨン)国防相(当時)が2010年10月に国会で明らかにしたが、この1か月半ほど前の8月23日から25日にかけて、西海岸で複数回にわたってGPSに障害が発生している。北朝鮮の関与が疑われているが、1回あたりの障害は10分程度しか続かなかったため、妨害電波の発信源は特定されていない。
今回の妨害電波が仁川(インチョン)空港や金浦(キンポ)空港付近で確認されたのは、2012年4月28日。それから10日以上たった5月9日になって韓国の国土海洋部(日本の国土交通省に相当)が妨害電波の発信源は北朝鮮だと断定し、
「有害な混信を禁止した国際電気通信連合(ITU)憲章に違反し、国際民間航空機関(ICAO)条約などで保証されている国際民間航空の安全を脅しうる違反行為に該当する」
として妨害の即時停止を求める声明を発表した。今回の妨害電波は開城(ケソン)付近から発信されているとみられている。開城は板門店から北方8キロ、ソウルからは80キロの位置にあることから、妨害には前出のロシア製の設備が使用された可能性もある。
これまでに、日本の航空機10便を含む674便が妨害電波の影響を受けたことがわかっているが、この時点では国土海洋部は
「(GPS以外にも)慣性航法装置と無指向性無線標識を利用しており、異常なく運航している」
として、運航に直接の影響はないとの見方を示していた。
「一歩間違えれば大事故につながりかねない危険な状況だった」
ところが、翌5月10日の朝鮮日報の報道で、これが覆された。同紙によると、4月29日午後、大韓航空の子会社にあたる格安航空会社(LCC)のジンエアー機が新千歳空港から仁川空港に向かっていたが、着陸に向けて高度を落としていたところ、対地接近警報装置(GPWS)が誤作動した。GPWSは、地面や山と衝突するのを防ぐために、不用意に地面に近づくと警告音が鳴る。新型のGPWSでは、GPSを活用している。
機長は誤作動に驚き、機首をいったん上げて上空を旋回し、着陸をやり直した。乗員・乗客にけがはなかったが、朝鮮日報は「一歩間違えれば大事故につながりかねない危険な状況だった」と指摘している。同様のケースが、他にも3件起こっているという。
これを受けて、韓国政府の対応が弱腰だとする批判が相次いでいる。例えば「文化日報」は、5月10日の社説の中で、
「政府が安易な対応を続けているうちに、北朝鮮軍は韓国の対応態勢を試しながら『電子戦』の能力を高めていく」
「北のGPS挑発は、民間機・民間船舶まで狙った明らかなテロ行為だと規定しなければならない」
「同等の報復をしなければならないのは、もちろんのことだ」
と論じた。
同日午後には、仁川市で試験飛行中の無人偵察ヘリが墜落し、地上にいた1人が死亡。国防部は、「組み立て不備が原因」だとして妨害電波との関連を否定したが、無人ヘリは電波と大きなかかわりがあるだけに、政府に対する批判が加速する可能性もある。