(ゆいっこ花巻;増子義久)
「花がないなら、自慢の料理と話の花を咲かせましょうよ」―。9日、ゆいっこ花巻が主催した、一足遅れのお花見会に内陸避難者やボランティア、スタッフなど約70人が集まった。会場の「とうわボランティアの家」の周辺の桜並木はもう葉桜。でも、郷土の名物料理はこの日が満開。気仙沼ホルモン、うぐいす餅、花見団子、山菜の天ぷら…。被災者の皆さんが腕によりをかけた品々が所せましと並んだ。
中でも人気は大槌町出身の三浦ユワさん(75)が振る舞った「浜辺ラーメン」。今回の震災の1年ほど前に店を閉めたが、海岸沿いにあった店の前には連日、漁を切り上げた漁師たちが列をなした。営業して30年。内陸避難者の間から「ユワさんのラーメンをもう一度」という声が。昆布、鶏ガラ、玉ねぎ、にんじん、豚ガラ…。数日前から7種類の具を煮込んでダシを取った。「これが本当の浜の味なんだよねぇ」とお代わりをする人も。「店も何もかも津波に流されてしまったけれど、みんなが味を忘れないでいてくれた。それがとっても嬉しくって」と三浦さん。
「誰か故郷を想わざる」「喜びも悲しみも幾歳月」「白い花が咲く頃」…そして、あの「ふるさと」。花巻市や北上市で歌声喫茶を指導している元音楽教師の阿部つとむさん(70)のアコーデオン演奏に合わせて会場に歌声が響いた。釜石市出身の高橋国三郎さん(72)と英子さん(70)夫妻は初めてのイベント参加。「腹いっぱい歌ったのは1年ぶりかしら。歌はやっぱり故郷に向いてしまう。海の香り、潮騒や海鳴り、風の匂い、魚たちの尾びれ…。みんな体に染みついている。離れれば離れるほど故郷は向こうから近づいて来る」と英子さん。傍らにいた小林勝さん(72)がうなずいた。「そうだ。故郷はそこに戻って行くためにあるものなんだよ」
「皆さんにひと言、お詫びをしなければ」と川村菫子さん(75)が苦笑いしながら頭を下げた。花巻市二枚橋町で毎週水曜日、お年寄り相手の食事会を開いて17年。最近は内陸避難者も招かれるようになり、顔なじみも多い。この日はカレーライスを提供したつもりだったが…。「みなさんから、ヘルシーで美味しかったと言っていただいて…。でも白状すると、肉を入れ忘れてしまったんです」。会場にはじけるような笑いがはね返った。
福岡から、京都から、千葉から…。この日のイベントを手伝ったくれたボランティアのみんなが打ち解けた調子で挨拶をした。震災2目を迎え、支援の質が少しずつ成熟しているのを実感した一日だった。
ゆいっこ
ゆいっこネットワークは民間有志による復興支援団体です。被災地の方を受け入れる内陸部の後方支援グループとして、救援物資提供やボランティア団体のコーディネート、内陸避難者の方のフォロー、被災地でのボランティア活動、復興会議の支援など、行政を補完する役割を担っております。
ゆいっこは、「花巻」「盛岡」「北上」「横浜」「大槌」の各拠点が独立した団体として運営しておりますが、各拠点の連携はネットワークとして活用しております。
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