核燃料サイクル政策のあり方を議論する内閣府原子力委員会の小委員会が2012年4月19日に使用済み核燃料の処理方法別のコスト試算を公表したが、10日足らずで計算し直す羽目に追い込まれた。
脱原発のケースも含む試算は初めてとあって注目を集め、大手紙の評価も割れていたが、最初の試算(一次試算)の際に再処理の優位性を強調した論調を掲げた社がバツの悪い思いをする結果になった。
3つのケースに分けて試算
試算は、核燃料サイクルの見直しのケースとして、(1)使用済み燃料をすべて再処理する現行の政策を維持した場合、(2)再処理をやめて全て地下深くに直接処分する場合(3)20年間、一部の再処理を行う場合――の3つの選択肢について、発電量全体に占める原発の比率を、2030年に35%(現状維持)、同20%(減原発)、2020年に0%(脱原発)の3ケースに分けて計算した。
まず4月19日発表された一次試算では、2030年までの再処理や燃料加工などにかかる費用の総額は、原発35%と原発20%では、「全量直接処分」が「全量再処理」をそれぞれ2兆円程度上回った。原発比率35%で全量再処理という現在の核燃料サイクル路線の維持は9.7兆円に対し、35%で再処理をやめると最大11.9兆円と最もコストが高いと試算。最も処分費用が安いのは、8年後の2020年までに原発をゼロにしてすべて直接処分するケースの7兆~7.1兆円だが、それでもかなりコストがかかるという意外感のある数字になった。
ところが、試算の"からくり"が判明した。問題は燃料を再処理する六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)の廃止などの費用で、全量直接処分する場合は、再処理工場や燃料加工工場が建設費に見合う使用ができないまま早期廃止されるため、工場廃止費用など4.7兆円と弾いた。これについて19日の小委でも「過去の政策決定で生じた投資費用を政策変更に伴うコストに単純に足すのはおかしい」などと批判が出ていたが、24日夕刊で毎日新聞が、小委の鈴木達治郎座長(原子力委員長代理)の指示に「事務局が従わずに計算した」と特報し、一気に問題が広がった。
撤回された試算数字を持ち上げる
鈴木座長が同日会見して試算やり直しを表明。27日に発表された再試算は、「300年以上先までの費用を積算」したとして、計算の前提が全く異なるように装っているが、要は再処理工場廃止費用4.7兆円を全量直接処分に単純に上乗せした一次試算を修正したのが最大のポイントで、「当然のこととして直接処分が割安という結果になっただけのこと」(反原発団体関係者)。
この試算騒動の報道では、大手紙の原発へのスタンスの違いが鮮明にでた。主要なところの見出しと記事の重点をみると――
一次試算の段階で、朝日は「再処理せず全て地下に埋設して直接処分すると、再処理事業の廃止に伴う費用約5兆円を含めても7.1 兆円。全量再処理を基本とする現行計画より2~3割安くなった」と、試算をそのまま前提にしても「原発廃止・直接処分」に軍配を上げ、毎日も「国策である『全量再処理』が(必ずしも)有利でないことを示した」と指摘。再試算が発表されると、両紙には「再処理は割高」(朝日)、「全量地中処分が最安」(毎日)との見出しが躍った。
これに対し、読売は一次試算の際に「直接処分 割高」と大きく報じ、解説記事で「立場(の違い)を超えて共有できるデータの一つとして、有効に使っていくことが求められる」と、後に事実上撤回される数字を持ち上げてしまった。日経も「再処理やめると割高」と書いた。再試算が出た後は、努めて淡々と報じている印象だが、それでも「原発を全廃するケースでは、代替エネルギー(のコスト)を考慮していない条件で……全試算中で最も安かった」(読売)、「原発……を減らした場合の代替発電にかかる費用などは考慮していない」(日経)など、脱原発の問題点にわざわざ言及したのが目を引いた。