ウナギが庶民の口に、ますます入らなくなりそうだ。政府は2012年5月7日、国の基準値(1キログラムあたり100ベクレル)を超える放射性セシウムを検出したとして、茨城県霞ヶ浦などの湖沼や那珂川など一部の河川で捕れる天然ウナギなどを出荷停止にした。
農林水産省によると、2010年の天然ウナギの漁獲量245トンのうち、霞ヶ浦や那珂川流域などの茨城産は40トンを占めて全国トップ。養殖ウナギも不漁のため、価格も値が吊り上がるが、「書き入れ時」を前に漁師らの生活をも脅かされている。
「基準値が500ベクレルあるわけではないのに…」
茨城県ではこれまで、海域はもちろん、霞ヶ浦水系や常陸利根川、那珂川といった流域で捕れる水産物についても原発事故の影響を検査してきた。4月17日には霞ヶ浦水系で捕れたアメリカナマズやギンブナ(それぞれ、養殖を除く)は国の基準値を超えたため、出荷制限を指示した。
4月からは、国の基準値が1キログラムあたり500ベクレルから100ベクレルに引き下げられたこともあり、茨城県は霞ヶ浦北浦や那珂川などの流域の水産物についても出荷や販売を自粛するよう要請していたこともある。
この中に、天然ゲンゴロウブナ(ヘラブナ)と天然ウナギがあった。
県漁政課によると、霞ヶ浦に流入する河川と支流を含む那珂川などを検査したところ、4月10日に霞ヶ浦の西浦で捕れたウナギから1キログラムあたり180ベクレルが、北浦で同117ベクレルが検出されていた。
「検査では基準値(100ベクレル)以下のウナギもあった」が、結果的に4月23日に那珂川水系の涸沼で捕れたウナギが110ベクレルあったことで、出荷停止にせざるを得なくなったようだ。
厚生労働省によると、ウナギの出荷停止は初めてで、現在市場には流通していないという。
一方、霞ヶ浦漁業協同組合連合会によると、ウナギ漁を専門とする漁師は約70軒ある。「霞ヶ浦の天然ウナギは知名度が低いため、今年は力を入れて積極的にPRに乗り出そうとしていた矢先のこと」とショックを隠せない。
「基準値が500ベクレルもあるものが捕れているわけではないのに」と、悔しさをにじませる。漁ができず、生活の糧がない状況に、漁師たちは困惑している。