北朝鮮が、「今までにない特異な手段」で「特別行動を間もなく開始する」と不気味な宣言をしてから2週間がたった。この間、韓国でGPS(全地球測位システム)をかく乱する妨害電波が確認された。
250機以上の航空機や船舶でGPS障害がみられたものの、運航への実害は報告されていない。妨害電波は、北朝鮮からの「攻撃」であり、「特別行動」はこれでもう終わりなのか。専門家の中には、「韓国首都圏への砲撃」を懸念する声もある。
妨害電波によるGPSかく乱の例は、過去にもある
北朝鮮の朝鮮中央テレビで女性アナウンサーが、
「特別行動が始まれば、3~4分またはそれよりも短い時間で、今までにない特異な手段と我々式の方法で、すべてのネズミ野郎と挑発の根源を焦土化してしまう」
などと激しい調子で韓国批判をまくしたてたのは、2012年4月23日だ。
4月25日が北朝鮮人民軍の創建80周年記念日だったこともあり、「25日にも『特別行動』を起こすのでは」と注目を集め、「今までにない」手段についても憶測を呼んだ。核実験や島への砲撃の例は過去にあるため、サイバーテロの可能性を指摘する声も出ていた。
そんな中、韓国の国土海洋部(省)が5月2日、ソウル近郊を中心に航空機のGPSに障害を起こす妨害電波が4月28日から続いていると発表した。中央日報(韓国)の報道などによると、韓国の放送通信委員会は、妨害電波は北朝鮮地域から発信されていたのを把握したとしている。
GPSは補助的に使われており、「正常運航」に大きな影響は出ていないという。その後、韓国北西部で漁船のGPSなどにも障害が確認されたが、事故の報告はない。
この「妨害電波による攻撃」が、北朝鮮がいう「特別行動」なのだろうか。
「コリア・レポート」の辺真一編集長に聞いてみると、「妨害電波によるGPSかく乱の例は、過去にもある」として、「『特別行動』そのものではない」と指摘した。
むしろ、「特別行動」に向けた準備行為であるかもしれず、今後も警戒が必要だ。辺編集長が懸念しているのは、2010年に起きた「(韓国の)島への砲撃」ではなく、ソウルなど首都圏への砲撃だ。「3~4分」以内の「焦土化」、「今までにない」などの北朝鮮側の表現を総合的に考えると、「首都圏への砲撃」の可能性が強く浮上してくるという。
金正恩氏「危険なゲーム」に自らを追い込む?
過去の報道などによると、北朝鮮は、ソウルなど首都圏を射程内に入れる長距離ロケット砲を300門以上配備しているとされる。
しかし、「首都圏への砲撃」を実行してしまえば、韓国側から強い反撃を受けるのは間違いない。局地戦では済まず、全面戦争につながる可能性すらある。北朝鮮はそこまで「覚悟」しているのか。
北朝鮮の「3代目」である金正恩第1書記の周辺は、「特別行動をとる」と北朝鮮国内の世論を高めつつ、対外的には「平和を愛する自分(正恩氏)が、何とか行動を抑えているのだ」とアピールする狙いがある可能性もある。
しかし、このまま何もしなければ、韓国などから「口先だけの恫喝外交だ」と完全に見透かされ、今後は「瀬戸際外交」が通用しなくなるというジレンマも抱えているはずで、正恩氏は「危険なゲーム」に自らを追い込んでいる形だ。
辺編集長は、「(正恩氏周辺は)局地戦までは考えている」と見ている。近く北朝鮮が実施に踏み切るとみられる核実験も含め、予断を許さない情勢のようだ。
韓国軍は5月7日、在韓米空軍との合同戦闘訓練「マックスサンダー」を始めた。韓国西部空域で18日まで実施する。定期訓練だが、過去最大規模となる60機が参加するなど、「特別行動」を宣言した北朝鮮の軍事的挑発をけん制する狙いがあるとみられる。