「歳入庁の創設」進まないのは 財務省の「陰謀」なのか

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   税と社会保険料を一元的に徴収する「歳入庁」の設置について、民主党のワーキングチームは2012年4月11日、中間報告をまとめた。日本年金機構(旧社会保険庁)の保険料徴収部門を分割し、国税庁に統合することが柱で、将来は介護保険料や雇用保険料の徴収も移管することを検討する。

   国税庁の調査能力を生かして、年金保険料の未納問題を改善するとともに、行政の効率化も進めるという一石二鳥の結構な話のようだが、根底には徴税という国家権力の行使を巡る歴史的な経緯もある。「財務省が権力の源泉である国税庁を手放すことに抵抗」といった単純な問題ではなさそうだ。

設置時期は2015年1月を軸

   歳入庁創設については、消費税増税関連法案の付則に、「本格的な作業を進める」と明記された。民主党は2009年の衆院選マニフェスト(政権公約)に歳入庁設置を明記したものの、具体化は進んでいなかったが、消費増税論議の中で、「税率引き上げ前に無駄削減を徹底すべきだ」という党内の増税慎重派への「懐柔策」の一つとして急浮上した経緯がある。

   民主党の中間とりまとめでは、歳入庁の設置時期は、税と社会保障の個人情報を一つにまとめる共通番号制度が導入される2015年1月を軸とした。問題は所管官庁と職員構成だ。

   所管については、①(公正取引委員会のような)独立組織、②財務省の外局、③内閣府の外局――の3案を提示。地方自治体が行っている地方税の滞納分の徴収を歳入庁が行うことも提案。日本年金機構は年金の加入手続きや給付・相談などの自治体業務を請け負う民間組織に改編する。職員は国税庁職員が中心で、業務量増加に伴う増員を予定するが、「日本年金機構の(徴収業務対象の)職員の移籍は前提としない」と、わざわざ明記した。

対政治、対マスコミへの強力な武器が国税庁

   こうした政府・民主党サイドの検討作業に対し、官僚(特に財務省)批判の急先鋒であるみんなの党は、一足早く2013年度に歳入庁を設置する法案を3月に単独で提出済み。同党と理念が近いとされる橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会も衆院選向けの政策集「維新八策」の原案に「歳入庁創設」を盛り込んでいる。みんなの党の江田憲司幹事長は、民主党の作業が「遅々として進まない」と批判し、「背景には、財務省の存在がある。野田政権を実質上支配する、この役所にとっては、国税庁という『権力の源泉』を失うことは、絶対に阻止しなければならない。……対政治、対マスコミへの強力な武器が、この国税庁なのである」(3月19日ブログ)と、財務省の抵抗を強調する。

   民主党関係者は「『財務省陰謀史観』でなんでも説明すれば、みんなの党的見方になるが、職員構成が歳入庁問題の肝だ」と指摘する。戦後の労働問題の中で、「査察(強制調査)など強力な権限を持ち、徴税という国家権力を行使する国税庁で左翼系労組の弱体化は国家的な課題だった」(財務省筋)。

共通番号「マイナンバー」制度の導入も必要不可欠

   一方、旧社保庁は自治体業務と人員を吸収した経緯から、地方事務所を中心に、国の組織なのに自治労加盟労組が強かった。自治労と言えば旧総評の左派の中心的存在。「その職員を徴税にかかわらせることは、国税庁としては絶対に認められない」(同)というわけだ。自民党の谷垣禎一総裁が「(旧社保庁は)モラルが低かった。税を集める機能がガタガタになる」と歳入庁に反対するのも、「徴税の重み」を意識してのこととみられる。

   そもそも、小口の保険料を集める年金機構と、巨額の脱税まで追う国税庁の業務の性格が違いすぎるとの指摘があるし、効率化には巨大なシステムの統合が必要だが、それは「10年がかりの大仕事」(国税庁幹部)。当然、納税と社会保障などの情報を管理する共通番号「マイナンバー」制度の導入も必要不可欠になる。ことほど左様に、実務的な関門も多く、歳入庁実現までにはまだ一山も二山もありそうだ。

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