損失隠しによる粉飾決算事件を起こしたオリンパスが2012年4月20日、臨時株主総会を開き、笹宏行社長ら11人の新たな取締役からなる経営体制が正式発足した。ようやく再建に向けた体制が整ったが、新経営陣は信頼回復に加え、低下した自己資本比率の回復などの課題に待ったなしで取り組む必要がある。
欧米の投資顧問会社は人事案に反対
「私に課せられた課題は、一刻も早く失われたブランドと信頼を取り戻し、企業価値向上に全力を尽くすこと」。株主総会の最後に笹新社長が登壇し、宣言した。
ただ、株主の新経営陣に対する目は厳しかった。特に取引先銀行出身の2人の取締役の選任に対する賛成率は低く、三井住友銀行出身の木本泰行会長は64.6%、三菱東京UFJ銀行出身の藤塚英明専務は68.3%と7割に届かなかった。笹社長も70.7%とぎりぎり7割台。昨年6月の定時総会で全取締役の賛成率が9割を超えていたことからすると異常な低さだった。
今回の人事案を銀行主導だとして反対する意見も機関投資家を中心に根強いことが影響したと見られる。オリンパス株を保有する欧米の投資顧問会社9社は、人事案に反対する意向を表明していたほか、米議決権行使助言会社ISSも、木本、笹両氏らの選任に反対するよう株主に助言していた。
ソニーや富士フイルムが提携申し入れ
笹新社長らオリンパスの新経営陣が直面する課題は、信頼回復と財務体質の改善だ。
新経営陣は11人の取締役のうち、「生え抜き」は笹氏ら3人だけだ。社外取締役は6人と取締役の過半を占める。6人は取引関係のない会社から招いており、後藤卓也花王会長、蛭田史郎旭化成最高顧問、藤田純孝伊藤忠商事副会長、西川元啓新日本製鉄常務、今井光レコフ社長、藤井清孝ベタープレイス・ジャパン社長の各氏。残る2人は先に賛成率の低さで触れた銀行出身者だ。
形式としては透明性の高い経営体制を整えたが、株主からは「生え抜き3人だけで取締役会が機能するのか」との疑問も寄せられただけに、今後はコーポレートガバナンス(企業統治)の実効性が問われそうだ。
一方、財務体質改善にも取り組む必要がある。損失隠しを反映した決算の修正により、自己資本比率は昨年12月末現在で4.4%まで低下した。同業のキヤノン(68.8%)、ニコン(46.8%)に遙か及ばないだけに「危機的な状況」(高山修一前社長)に違いない。
オリンパスには医療事業の強化を目指すソニーや富士フイルムホールディングス、テルモの3社が資本提携を申し入れている。第三者割当増資を引き受けてもらうことで資本増強するのも一つの手段になりうるが、株主総会で高山前社長は「提携ありきではない」とやや否定的なニュアンスを示した。笹新社長も「自力再建も視野にある」としている。社内には「毎年の利益で資本を積みますのも一手」との声もある。
ただ、市場には「新たな投資に踏み出すためにも資本増強は必要かつ急務」との指摘は多い。新経営陣は5月末にも提携を含めた新たな経営戦略をまとめる方針で、経営判断の時間は限られている。