お手伝いさんが裏木戸を開けてくれた
――その頃から、正田邸の正門前には次第に多数の報道陣が集まるようになったようですが、インタビュー第1回に何度か出てきた「正田邸への秘密のルート」とは何だったのですか。
佐伯 ぼくは以前から正田邸へ入れてもらっていたが、多数の取材陣を前に、さすがに「朝日の佐伯だけ家の中へ正面から入っていくのはまずい」という状況になってきた。
日付ははっきりしないが、「もう今までのようには正田邸へは入れませんよ」と会社で報告すると、デスクだったかキャップだったかが、社会部の疋田桂一郎記者の実家が正田邸の近くだから、そこを通じて潜り込め、と指令を出してきた。知恵者が誰か進言したんだろうね。疋田さんは後に、朝日新聞1面の「天声人語」を担当するのだけれど、当時は30代半ばくらいかな、その頃から「文章がうまい」と言われていた。
で、現地に行ってみると、五反田の高台にある正田邸の正門に向かって2、3軒左隣が疋田さんの実家だった。疋田家の裏口を出るとZ字形の狭い路地があり、正田邸の生け垣に行き当たる形で続いていた。そこに正田邸の裏木戸があった。正門からは完全に死角だけど、当然カギがかかっている。
疋田家に戻って正田邸にいる美智子さんの母、冨美さんに電話をして、「裏木戸を開けて下さい」って頼んだら、冨美さんは笑いながら「いいわよ」と言ってくれた。行くとお手伝いさんが裏木戸を開けて入れてくれた。最初に裏木戸から入った日の時間帯は遅い夕方だったかな。あとはこのパターンの繰り返し。