「そのお話はダメ。あなたはお部屋へ上がってなさい」――当時「お妃選び取材班」だった元朝日新聞記者の佐伯晋さん(81)は、美智子さまとの初の対面取材に成功したが、肝心の質問は、母の正田冨美さんにさえぎられてしまった。
佐伯さんに聞く第6回は、佐伯さんが美智子さまに初めて取材したときの印象を紹介する。
どうしても、母冨美さんに会いたい
――前回、1958年5月に「美智子さん有力」情報を聞きつけた佐伯さんが、美智子さんの実家、正田家との初接触に成功し、美智子さんの父、英三郎さんに取材した話を伺いました。父親への取材ではほとんど情報を得られなかった一方、英三郎さんの秘書から話を聞きたいと声をかけられた話も出ました。
佐伯 秘書の岩城晴一さんと会って話を聞くうちに、「美智子さん問題」の「キーパーソン」は母、冨美さんだなということが分かった。正田家は、英三郎さんは寡黙な人で、どうも「婦唱夫随」といった風情があった。そこでどうしても、母冨美さんに会いたい、と岩城さんにお願いしていたんだ。
6月26日に会えることになり、五反田の高台にある正田家にお邪魔し、1階の応接間に通された。立派な家ではあったけど、周囲は高級住宅街で、周りと比べて特別すごい、という感じではなかった。
冨美さんは口が堅くて「金城鉄壁とはこういうことを言うのか」と感じたほど、何も教えてくれなかった。逆に冨美さんが、宮内庁によるお妃選びの状況についての質問をぼくにたくさんしてきた。あとで「今後も話を聞きたい」という趣旨も伝えられた。