ちょっと斜めを向いてポーズを取る風を見せてくれた
――よく写真を撮らせてもらえましたね。
佐伯 「今、着てたとこです」と明るく話す美智子さんの白いドレス姿がとてもきれいだったので、「1枚お願いします」と声をかけると、ちょっと斜めを向いてポーズを取る風を見せてくれたので、小型のオリンパス・シックス、いや、もうニコンに変えてたかな、でパシャリと撮った。フラッシュはたかなかったな。ぼくは写真は下手だったんだけど、正田家の人は、朝日新聞の人間でも、早くから接触していたぼくしか家に入れてくれなくて、カメラマンは入ることができなかったんだ。
フィルムを社に持ち帰ると、そのドレス写真が婚約発表当日の号外を大きく飾ることが決まり、美智子さんたちも喜ぶだろうと、26日の朝早く、いつものルートで正田家へ配る前の号外を持って行ったんだ。
応接間で美智子さんと母の冨美(後に富美子に改名)さんに号外を見せると、突然美智子さんが、わっと泣き崩れた。こっちも気が動転してよく覚えてないが、美智子さんは両手で顔を押さえていたように思う。どうしたのかと戸惑っていると、冨美さんが「佐伯さん」と声をかけてきた。
――何が問題だったのですか。
佐伯 号外写真の美智子さんは、頭から肩にかけて白いショールをかけていた。それを見てボクは「いかにも花嫁さんみたいできれいだ」と思ったのだが、そのショールについて冨美さんは「こんな格好をするのは礼拝のときのカトリックを連想させるの」「ただでさえうちは(聖心女子大出身ということもあり)カトリックではないかと(皇太子妃は旧華族出身者であるべきだと考える守旧派から)疑われているのに」とすっかり困惑した様子で話した。
冨美さんはさらに、「この写真が表に出れば(婚約に)反対の声が大きくなり、大変なことになるかもしれない」として、「この号外は取り消して頂けないか」と、おろおろした感じで語りかけてきた。