日本商工会議所が「エネルギー・原子力政策に関する意見」と題する提言をまとめ、岡村正会頭が枝野幸男経済産業相、藤村修官房長官に申し入れた。財界三団体の中で、経団連は原発推進、経済同友会は「縮原発」を主張しているが、もともと原発推進の日商が原発事故後、政策を見直すのか、注目されていた。
今回、日商は「当面は原発を維持するが、将来的には廃炉とともに原発が減っていくのはやむを得ない」(幹部)と、民主党政権の唱える稼働40年の廃炉を容認する立場を鮮明にした。
「現行の原子力の計画は見直さざるを得ない」
一見すると、民主党政権の脱原発依存を容認する政策とも受け取れるが、核燃料サイクルの維持や、建設中の原発の工事再開を認めるなど、全体的に原発推進のトーンが強い内容となっている。
日商は、原発のプラントメーカーでもある東芝相談役の岡村氏が会頭を務めるが、岡村会頭は会見で「原子力政策を推進しようというようなことは言っていない。安全性、安定供給、コスト、環境、安全保障等々を含めてエネルギーミックスを作ると、その中に原子力も当然入るだろうということを申し上げている」と述べ、「日商は原発推進」との見方を否定した。
エネルギーミックスとは、経済産業省が今夏に見直す「エネルギー基本計画」の中で、2030年の電源(発電電力量)の内訳を示すもので、現行計画は原発の比率を53%(2007年の実績は26%)、再生可能エネルギーを21%(同9%)などと位置づけている。原発事故をきっかけに、原発依存度の高い現行計画の見直し論議が進んでおり、日商も「現行の原子力の計画は見直さざるを得ない」と、初めて原発比率の縮小を認めた。
しかし、日商は数値こそ明示しないものの、2030年時点でも原発は一定程度は残るとみている。興味深いのは、民主党政権の「運転開始から40年を経過した原発を原則として廃炉にする」という政府方針を日商が認めている点だ。原則40年の廃炉方針について、経団連は立場を明確にしていない。
岡村会頭は「原発は40年稼働とすると、20年後にはかなりの数が廃炉になってくる」「これから廃炉が増えてくる状態の中で、当然(原発の)ウエートは減る。新規に作ろうとしているのは、そう多くない。果たして、原子力には基幹エネルギーとして何%持ってもらったらよいか、という議論になる」と、原発がフェイドアウトしていくことを容認する考えを示した。
建設中の原発についても言及
もちろん、日商は今夏の原発の再稼働を求めているほか、中国電力の島根原発3号機や電源開発の大間原発など既に建設中で、原発事故後に工事が中断している原発について、「再稼働可能な原発と同様の検証と安全性の強化を行い、立地自治体の納得を得ることを前提に計画に織り込むべきだ」と、踏み込んだ指摘をしている。着工前の計画中の原発についても「既存の原発の廃炉見通し、安全性強化に関する技術の進捗等を踏まえ、個別に判断するべきだ」とした。建設中や計画中の原発について、財界が具体的に提言するのは初めて。
岡村会頭は長い時間たった原発を廃炉とし、最新の原発に置き換える「リプレース」を支持する立場だが、「準備中の原発は多くない。廃炉の数の方が数十年後には多い」と、将来的に廃炉で原発がゼロに向かうとの見方を崩さなかった。
原発が将来的に廃炉・縮小に向かう以上、核燃料サイクルの維持も困難になるのは必至で、日商は「今後の推進体制、計画等は、総合的な検討を行う必要がある」と、言外に見直しの必要性を示唆した。一気に方針転換はできないものの、直面する現実を前に悩む財界の姿が垣間見える。