「日本のあばら骨たらん」 太平洋と日本海を結ぶ産直店がオープン【岩手・花巻】

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店長の小笠原さん(左)ら従業員と店内の模様替えを話し合う阿部社長(右から2人目)=花巻市西宮野目で
店長の小笠原さん(左)ら従業員と店内の模様替えを話し合う阿部社長(右から2人目)=花巻市西宮野目で

(ゆいっこ花巻;増子義久)

   東日本大震災の際の奇跡的な救出劇が取り持った縁で5月11日、花巻市内に太平洋と日本海を結ぶかけはし交流産直(アンテナショップ)がオープンする。名付けて「結海(ゆうみ)」、英語表記の「You and Me」にも通じる。


   あの日、男鹿半島に近い秋田県五城目町と、隣接する井川町の老人クラブの一行43人が大槌町吉里吉里の波板観光ホテルで観劇中に地震が発生。海岸線から約50メートルのホテルにも真黒い津波が押し寄せて来た。営業支配人だった小笠原弘孝さん(48)ら従業員の適切な誘導で全員が高台の集会所に避難、2日後に無事、故郷に帰還した。しかし、5階建てのホテルは3階まで浸水し、社長ら5人が犠牲になった。


   これがきっかけとなり、五城目町は町を挙げて支援に乗り出し、昨年5月にはホテル従業員を招待したほか、今年2月には手作りの灯籠を贈った。小笠原さんが五城目町に雇用創出のための交流産直の開設を相談。この話を旧知の花巻市内の漬物製造業「道奥(みちのく)」(阿部久美子社長)が聞き及び、空き店舗になっていたレストラン(鉄骨平屋、約 900平方メートル)を無償で提供することを申し入れた。


   花巻市には空港や新幹線、高速道のインターが集中し、沿岸被災地への入り口に位置している。また、日本海側の五城目町と太平洋側の大槌町とのちょうど中間点にあり、立地条件にも恵まれている。オープンに当たっては同市の緊急雇用創出事業を導入、6人の雇用枠のうち5人は被災者。小笠原さんがすでに店長に内定している。


   店内には木材の町として知られる五城目町の家具や刃物、男鹿半島の魚介類、花巻市の福祉施設の製品、大槌町など三陸沿岸の海産物など色とりどりの産品が並ぶ。また、花巻市内に避難している被災者の手内職の作品も販売する。地震・津波が発生した毎月11日、500年の伝統を誇る「五城目朝市」を開催。名物の郷土料理「だまこ鍋」を振る舞う。


   「いわてゆいっこ花巻」も運営に全面協力することにしており、店内の一角に「ゆいっこブース」を設置。東日本大震災の記録写真や映像がいつでも見れる「アーカイブコーナー」や語り部コーナー、手内職の作業場などを設けることを計画している。「東京へ、中央へ」―。日本はこれまで背骨を鍛えることだけに夢中になり、その間にあばら骨がすっかり貧弱になってしまった。「健全な肉体も背骨だけでは保てない。結海こそが日本のあばら骨たらん」とスタッフは張り切っている。


   花巻市は詩人の宮沢賢治の生誕地。その「雨ニモマケズ」や『農民芸術概論綱要』(「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はありえない」)が今回の大震災をきっかけに全世界で読み継がれるようになった。阿部社長は「1年たって早くも記憶の風化が叫ばれている。観光客やボランティアの通過点に当たる花巻の地を賢治精神を発信する拠点にし、『3・11を忘れない』を合言葉にしていきたい」と抱負を語る。


   オープンの5月11日は五城目天翔太鼓、男鹿のナマハゲ、花巻の鹿踊り、大槌町の神楽など郷土芸能の共演のほか、先着200人に「だまこ鍋」やつきたての餅の無料サービスがある。

 かけはし交流を呼びかける「結海」のチラシ
かけはし交流を呼びかける「結海」のチラシ


ゆいっこ
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