グーグルの「サジェスト(予測)機能」でプライバシーを侵害されたとして、日本人男性が米グーグル本社に表示差し止めを求める仮処分を申請し、2012年3月19日、東京地裁は申請を認める決定をした。同様の訴訟はフランスでもあり、2011年12月、グーグルに対して損害賠償の支払いを命じる判決が出ており、グーグルの対応が注目されている。
「サジェスト(予測)機能」は、検索の際の補助機能で、単語を入力している途中で関連する語句を予測、自動的に脇に表示する。男性の代理人の富田寛之弁護士によれば、数年前から男性の名前を入力すると犯罪行為を連想させる単語が関連語として表示され、この関連語を含めて検索すると、男性を中傷するサイトが表示されるようになった。
グーグルは日本の法律は適用されないと主張
退職に追い込まれたり、内定が取り消しになったりしたのはネットの中傷記事によるものだとして、グーグルに記事の削除を求めた。相手にされなかったため、関連語句の表示を差し止める仮処分を申請していた。グーグル日本法人は「削除権限は米国本社にしかない」と主張、米国のグーグル本社は「予測単語は機械的に選ばれており、意図的ではないので、プライバシーを侵害しない」と反論していた。決定後、日本の法律は米グーグル社内のプライバシーポリシーには適用されないとして、決定に従わないことを回答してきているという。
フランスでは2011年12月、名誉毀損でパリ高等裁判所が米グーグルに対して5万ユーロの損害賠償の支払いを命じていた。さらに、フランス、ベルギー、イギリス、スペイン、カナダ各国のグーグルのサイトからの「中傷語句」の削除、グーグルフランスのトップページに判決を掲載することなども命じられている。一審に続き高裁でもグーグルが敗訴した。
訴えたのは、フランス・リヨン市の保険会社。検索で社名を入力すると途中で「escroc(詐欺師)」が検索候補として表示された。グーグルは、ユーザーがもっとも頻繁に入力する検索語を自動的に表示しているにすぎないなどと反論したが認められなかった。また、米国企業なのでフランスの法律に従う必要はないとの主張も退けられている。グーグルはこの判決に従っていないもようで、現在でも「詐欺師」が検索候補として表示される。
日仏の裁判でグーグル側に利用者の国の法律に拘束されないという主張がある。消費税などの課税に対しても、海外に利用者の多いネット企業に見られる主張だ。フランスの有力誌レクスプレスのインターネットサイトは、フランス当局が2011年6月、グーグルフランスに家宅捜索に入り、多数のメールや請求書、契約書を押収したと伝えた。法人税や付加価値税の金額を算定するためだが、グーグルは法人税率が低いアイルランドに欧州拠点をおくなどして節税し、また日本の消費税に相当する付加価値税を払っていなかった。調査結果によっては1億ユーロを超える支払いを命じられる可能性があるとしている。
「アメリカの大企業は事業のほんの一部分についてしか税金を払っていない」
フランス政府が強気なのには理由がある。外国法人の事業活動について課税するための基準を検討していて、グーグルに対して適用できると考えているからだ。判例に基づく解釈通達として次の3点を適用基準としてあげている。(1)恒久的な施設を有する、(2)外国企業の代理人がその事業に関わる業務を独立して行っている、(3)cycle commercial complet(完全な事業活動)。「cycle commercial complet」とは、仕入れから販売まで事業を一貫して行っていることを意味し、これをあてはめれば、現行の法律を変えることなく、外国法人の「本当の売り上げ」に対する課税が可能だと見ている。
レクスプレス誌のエマニュエル・パケット記者はJ-CASTニュースの取材に対し「マイクロソフト、グーグル、アマゾン、アップルといったアメリカの大企業は、彼らの事業のほんの一部分についてしか税金を払っていない。"Le cycle commercial complet"は、アメリカ企業が単なる使い走りではなく、フランスの領土において顧客を見つけ、みずからの裁量でサービスを売ることができる地域子会社であるということを証拠立てる」と解説した。グーグルと同様の手口で「節税」をしているアップルやフェイスブック、アマゾンなど米企業にも大きな影響を与えそうだ。
サルコジ仏大統領が、インターネット事業者の広告収入に対する課税いわゆる「グーグル税」にしばしば言及し、導入に意欲を示しているが、これは外国法人がフランス国内における事業収入に応じた税金を払っていないことへの苛立ちからきている。しかし、インターネット事業者すべてが対象になる「グーグル税」は国内ネット事業者からの反発も強い。
フランス政府が適用を考えている法令・基準は日本にもあり、所得税法基本通達で示されているが、判例で固まってはいない。通達などによれば、国内において行う事業から生ずる所得については、非居住者でも「恒久的施設」を持っていれば総合課税とされる。事業活動の拠点となっているホテルの一室などでも「恒久的施設」に該当すると見る。