企業の公募増資の公表前に証券会社が顧客に情報を流して購入の意向を打診する行為に対し、証券取引等監視委員会が金融庁に金融商品取引法に基づく「違反行為」として行政処分を科すよう勧告した。
金融庁も勧告を受けて、初めて規制に乗り出す方針だが、再発防止策を求める業務改善命令を出すことになりそうだ。証券業界では「地合い(需給)を確かめる」ためとして、半ば慣例化している行為だけに、当局がどこまで本気なのか戦々恐々としている。
インサイダー取引の温床と指摘されてきた
勧告の対象になったのはSMBC日興証券。監視委関係者によると、同社は2010年1月に公表された三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)と、同年9月に発表された相鉄ホールディングス(HD)の増資でともに主幹事を務めた。しかし、公表前に顧客に増資情報を流し、購入する意向があるかどうか電話などで確認していたという。
SMFGの公募増資では、日興の社内会議に出席した営業部長5人中4人が営業店舗に電話などで増資情報を漏らしていた。法令違反を認識しており、うち1人は取締役だったという。営業部長から情報をもらったのは全125店舗のうち65店舗で、少なくとも21店舗がSMFG株の販売勧誘をしていたという。
3月には国際石油開発帝石の公募増資情報を主幹事の野村証券から事前に知らされ、運用担当者が同社株のインサイダー取引をしていたとして、監視委が中央三井アセット信託銀行に課徴金を科したばかり。監視委は野村に対しても、非公開情報の管理体制や、部門間での情報遮断のあり方などについて報告徴求命令を出すことを検討している。
公募増資情報を利用した顧客への事前勧誘行為はこれまでもたびたびインサイダー取引の温床と指摘されてきた。情報を得た顧客が実際に株を売買すればインサイダーに問われることになる。だが、証券会社本体は規制する手段がないというのが金融庁や監視委の従来の主張だった。
今後、野村や日興以外にも調査対象が広がる?
公募増資に絡んでインサイダー取引が疑われるケースは、2008年のリーマン・ショック以降急増しているという。今回の増資案件で情報が漏れた相鉄HDの株価は、発表数日前から大きく下落するなど不自然な値動きを見せた。2009、2010年度に続いた電力会社などの増資でも増資発表前に株価が急落した。
金融庁に対する監視委の勧告は、情報管理を徹底しない証券会社の行為が金融商品取引法の「信用失墜行為」に当たるという指摘だ。「これ以上放置すれば海外などの投資家から東京市場への信認が揺らぎ、資金流出を招きかねない」という危機感が背景にある。「今後、野村や日興以外にも調査対象が広がる可能性が高い」。業界関係者はそう声を潜めた。