お笑い芸人の猫ひろしさんの五輪出場をめぐって、前途に影が差してきた。ロンドン五輪のマラソンでカンボジア代表に選ばれたが、国際陸上競技連盟(IAAF)の規約に照らすと「出場資格なし」と判断される可能性があるからだ。
しかも最大のライバルとされるカンボジア人選手、ヘム・ブンティン選手が国際大会で、猫さんを7分近く上回る好タイムをたたき出した。カンボジア国内では、猫さんよりも自国の英雄ランナーの出場を望む声が高い。
国際陸連の「例外規定」に頼るしかない?
「カンボジアの人々はもちろん、ブンティン選手の五輪出場を望んでいます。ブンティン選手より遅いタイムの日本人がカンボジア代表だなんて、国民にとってうれしいわけがありません」
カンボジアの主要英字紙「プノンペンポスト」でスポーツを担当するダン・ライリー記者は、J-CASTニュースの取材にこう答えた。
もともとブンティン選手の記録は猫さんよりも速かったが、2012年4月15日に開催されたパリマラソンで2時間23分29秒と自己ベストを更新、猫さんはさらに水をあけられてしまった。ブンティン選手本人も、再三にわたって「自分より遅い猫さんがなぜ代表なのか」と批判を繰り返している。一方、猫さんはツイッターで「今の時点で彼が僕より速いのは確かだし僕はこの現実をしっかり受け止めます」と、胸の内を明かした。
立場的に苦しくなった猫さんに追い打ちをかけたのが、国際陸連(IAAF)の規約改正だ。国籍を変更した選手で、過去に国際大会の参加経験がない場合の代表資格取得について、IAAFでは「新たな国籍の取得から継続して1年以上の、その国での居住歴」が必要としている。ただし、IAAFが例外ケースと認めれば居住期間にかかわらず承認されることもあるという。
猫さんの場合、カンボジア国籍取得を発表したのは2011年11月のため、「1年以上の居住歴」の条件は満たされていない。あとは「例外規定」に頼るしかなさそうだが、猫さんを選んだカンボジア五輪委員会(NOCC)が「特例」をIAAFに認めさせられるかは微妙だ。
だがブンティン選手は、NOCCやカンボジア陸上競技連盟(KAAF)と折り合いが悪い。「プノンペンポスト」のライリー記者は、双方がお互いを非難し合う様子を取材してきたことを踏まえて「どっちもどっち」という印象だと話す。このような対立は、カンボジア当局によるスポーツ振興が不十分なのが原因であり、猫さんの代表選出問題だけを抜き出して議論しても「事はそれほど単純ではない」とライリー記者は考える。
カンボジア五輪委と良好な関係
ただしカンボジア国民の心情としては、「タイムの遅い日本人」ではなく「最高記録保持者のカンボジア人ランナー」を国の代表として送り出したいのは当然だ、とライリー記者は強調する。
「プノンペンポスト」4月17日付の記事では、猫さん側が「プノンペンハーフマラソン」の共同スポンサーを務めるなどしてNOCCとのパイプをつなげた点が取り上げられた。
ライリー記者は「現状を考えると、猫さん側によるNOCCへの資金面での支援がカンボジアのスポーツ界発展に寄与しているのは事実」と認める。実際に猫さんの五輪代表決定に影響を与えたかどうかは不明だが、ブンティン選手とは対照的にNOCCと良好な関係を築けたのは間違いなさそうだ。