インターネット小売り最大手の米アマゾン・ドット・コムが、日本で電子書籍サービス事業を開始する見込みだ。国内出版社40社と配信契約に合意したと報じられたのだ。
ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)も、2012年中の日本での事業開始を表明。一気に現実味を帯びてきた。
出版各社はアマゾンとの合意を認めず
学研、主婦の友、PHP研究所――。米アマゾンが電子書籍の配信で契約を交わしたと、2012年4月17日の朝日新聞で報じられた出版社だ。40社以上がアマゾンの電子書籍サービス「キンドル」日本版の配信で合意したという。
名前が挙がった3社はJ-CASTニュースの取材に対して、「アマゾンと交渉しているのは事実ですが、契約は結んでおりません」(学研ホールディングス広報室)、「現在アマゾンと交渉を進めている段階で、朝日新聞の報道については確認中」(PHP研究所広報宣伝部)、「現状、お話しできることはありません」(主婦の友社広報)と、いずれも「合意」については認めなかった。
過去にも「アマゾン上陸」が伝えられたことがある。2011年10月20日、日本経済新聞が「アマゾン、日本で電子書籍」と1面で報じ、大手出版社と詰めの交渉に入っているとした。同紙は2012年2月11日にも、「角川グループホールディングスなど出版各社とコンテンツ供給の契約交渉を進めており、一部の出版社とは大筋で合意」と伝えた。だがこれまで、配信契約の締結やサービス開始に関する具体的な発表はアマゾンからも、また出版社側からも行われていない。
しかし今回は、アマゾン総帥のベゾスCEOに動きがあった。国内主要メディアの取材に対して14日、2012年中の電子書籍サービス開始を初めて明言したのだ。日経では、詳細な時期は明かさなかったものの年内スタートに言及している。国内出版社との配信契約交渉に一定のメドが立ったことがベゾスCEOの発言につながったのではないか、とも推測できる。
アマゾンが米国で手がける電子書籍販売店「キンドルストア」では、紙版と比べて値段を低く設定しており、9.99ドル~12.99ドル(約800円~1040円)の価格帯がメーンだ。日本の場合、書籍は「著作物再販適用除外制度(再販制)」によって定価販売が義務づけられているが、公正取引委員会によると電子書籍は再販制の対象外とされている。それでもこれまでは、電子版は紙版と同じ価格か、安くてもわずかな差しかついていなかったケースが多い。アマゾン上陸により、電子書籍の値づけが一気に変わることが予想される。
三木谷社長「安売りするようなことはしたくない」
アマゾンでの低価格販売が国内でも実現すれば、出版社の収益を直撃するのは明白だ。この点、価格を決める主導権をどちらが取るかが交渉上の大きなポイントとなったようだが、先述の朝日の記事によれば「アマゾンが価格決定権を握ることに同意する社も出始めた」。これは、当初アマゾンが出版社側に突きつけていた契約条項のうち、いくつかを取り下げたことで妥協の余地が生じたためだという。
ICT総研が2011年7月14日に公表した国内の電子書籍需要予測によると、コンテンツの市場規模は、2012年度の910億円から、15年度には1890億円に成長するという。しかし、現状ではコミックや漫画が国内市場をけん引しており、ほかのジャンルはまだまだ少ない。そこで大手出版社が中心となり、従来の書籍コンテンツの電子化を進める「出版デジタル機構」の設立が2012年3月29日に発表された。過去の作品をデジタル化して電子書籍のラインアップを充実させる取り組みとして注目される。
興味深い動きもある。楽天の三木谷浩史社長は「週刊朝日」2012年4月27日号で、電子書籍市場への参入について述べた。楽天の場合「安売りするようなことはしたくない」「出版は文化」と、販売価格についてアマゾンとは言わば逆の戦略を口にした。2011年11月に買収を発表したカナダ企業の電子書籍端末「Kobo」を武器に、アマゾンの「キンドル」に対抗する。
やや伸び悩みの感があった国内の電子書籍市場だが、アマゾンという大本命に加えて他のプレーヤーが続々と配信サービスを開始するとなれば、この1年で一気に活性化しそうだ。