中国で松本清張氏の代表作で、長編推理小説の「球形の荒野」が人気のようだ。
中国で発売された当初はまったく注目されなかったが、2012年になって出版社が本のタイトルを改め、再出版したところ火がついた。
10点満点で「9.2点」の高評価
松本清張氏の「球形の荒野」は、今年になって出版社の北京読客図書有限公司が書名を「一個背叛日本的日本人(日本を裏切った日本人)」と改めて再出版されると、カルチャー系のソーシャルネットワークサービス(SNS)の新書欄のトップページに掲載され、10点満点で9.2点の高い評価を得るようになった。
「球形の荒野」は、松本清張氏の初期を代表する作品で、1962年1月に文藝春秋から刊行された推理小説。物語の舞台は1961(昭和36)年。第二次世界大戦中で亡くなった外交官の父・野上顕一郎の死亡前後の事情を探っていた娘の久美子とそのボーイフレンドの添田彰一が相次ぐ怪事件に巻き込まれていく…
これまで何度となく映画やドラマ化され、最近では2010年11月にフジテレビがドラマ化し、2夜連続で放送した。
そもそも、日本で売れた名作だからといって、海外で受け入れられるとは限らない。言葉や文化、社会や生活習慣がまるで違うのだから、「共感」できることのほうが少ないし、難しいことは想像できなくない。
しかし、2012年4月7日付の人民網日本語版によると、北京読客図書の関係者の証言として、「(これまで売れなかった)最大の原因は、読者がイメージしにくい難解な書名であった」としている。
再出版するにあたり、「当社は書名を『日本を裏切った日本人』と改めた。この書名は物語の内容を正確に要約しており、シンプルで読者も一目で理解することができる」と続ける。
さらに、「当社は装丁のデザインにもこだわり、表紙では、純白をバックとした真っ赤な日の丸が刀に切り裂かれている。第二次世界大戦の敗戦前夜、ある日本人外交官の生死を賭けた闘いに関する物語の魅力が、読者に十分伝わってくる」と語った、という。
デザインが中国人の反日感情を刺激
難解だったタイトルを中国人にもわかりやすくしたうえ、装丁のデザインでは日本を象徴する刀で、日本人が自らの手で日の丸を切り裂くような行為を連想させた。そのデザインが中国人の反日感情を揺さぶったようにもみえる。
有名小説が中国で不評となった例では、日本では2011年に100万部を突破してベストセラー、となった「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著)がある。
北京の新華書店のデータによると、12年2月の発行部数は北京市内で4部のみという。
日本人にはドラッカーが説く経済学を高校野球の女子マネージャーがわかりやすく「解説」してくれるビジネス書の要素もあって人気だったが、中国人には「高校野球」という舞台設定がわからないし、タイトルもわかりづらいのかもしれない。