内需型産業のアジアを中心とした海外展開が加速している。小売業や外食産業の動きが一段と活発化するとともに、警備会社などのサービス業までが中国のほか東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国を中心に進出が目立つ。
やや一服しているとはいえ、円高で製造業の国内空洞化が懸念されているが、空洞化とは無縁の業界による新たな需要開拓だ。海外投資からの収益という、21世紀の日本の「食いぶち」を拡大する動きとして期待される。
中国からベトナム、タイへと広がる
アジア展開と言えば、まず小売業界で、進出先の第一は、やはり中国。最近のトピックスとして、アパレルのしまむらが4月13日、中国本土初となる上海店を開店。同じくユニクロを展開するファーストリテイリングを追いかけようということだが、ユニクロは現在の110店から2012年8月期に60店出店、2020年までに1000店にする計画で、大きく先行する。中国ではほかにも、スーパーのイトーヨーカ堂が現在の13店を2016年度までに20店に、紳士服の青山商事も2016~17年度に100店体制を目指しているといった具合だ。
最近は中国一辺倒といえるような状況から、他の諸国に進出先が広がっているのが特徴。例えばスーパーのイオンはベトナム1号店を2014年にオープンする計画を発表した。8600万人の人口を抱えるベトナムは2007年の世界貿易機関(WTO)加盟で外資への規制が緩和され、注目されていて、ファミリーマートやミニストップといったコンビニもすでに進出しており、ファミマは現在の12店を今年中に40店に増やす計画という。
ドラッグストアもアジア市場の開拓に本腰を入れ始めた。ツルハホールディングスは5月にタイに1号店を出し、年内に数店、2年後には10店程度を目指す。住友商事が展開するトモズも夏に海外1号として台湾に出店する予定で、早急に50店体制にする計画だ。
警備会社のALSOK(綜合警備保障)は2007年に設立したタイの現地法人で常駐警備員の派遣や監視機械の販売を手がけ、ベトナム、インドネシアやインドにも事務所を設置し、現地のニーズ開拓に力を入れている。
円高で海外進出コストが下がる
メーカーでも、従来は「内需型」とされてきた日用品、食品、製紙などでも、現地企業の買収などを梃子に市場を開拓する動きが近年、活発化している。衛生用品などのユニ・チャームは年内にインドで2か所目の紙おむつ工場を建設するなど、同国での売上高を3年後に倍増させる計画。殺虫剤のフマキラーもマレーシアとインドネシアの生産販売会社を買収した。
こうした海外展開の背景には日本の人口減とデフレで国内市場が頭打ちになっていることがある。この間の円高で、海外進出のコストが安くなっているのも追い風になっている。
アジア市場の将来性への期待も大きい。総合研究開発機構(NIRA)の推計によると、日本を除く中国や韓国、インドネシア、タイなど成長が見込まれるアジア10カ国・地域では、年間の世帯可処分所得が5000ドル(約40万円)以上の中・高所得層は2010年の10億8400万人から、2020年には19億4600万人、2030年には25億8800万人に拡大すると予想されている。
こうした国々は「まだ高度成長期の日本のような段階にあり、日本で通用しなくなったGMS(総合スーパー)といった業態もまだまだ通用するなど、ビジネスチャンスは大きい」(貿易関係筋)。
日本の貿易収支は大震災後、輸出不振と原発停止に伴う火力発電のための燃料輸入の急増を主因に赤字基調が続いているが、1月は経常収支が赤字に転落し、ショックを与えた。円高からの本格反転も期待できない中、「製造業の区国内生産の空洞化という大きな流れも変わらない」(財務省筋)とあって、海外投資からの利子・配当など所得収支が日本経済の生命線を握る可能性が高い。ここは内需型企業にもアジアで大いに稼いでほしいところだ。