いわきのハマの早春の味といえば、マツモのみそ汁、そして酢みそあえ。今は亡きハマの知人が語るハマの食の1年の始まりだ。
カツオ、サンマ、アンコウその他、季節ごとに展開されるハマの料理の豊かさに、マチの人間は、すべてを口にする機会がなくてもいわきに住む喜びを感じたものだった。
いわき地域学會がいわき市の委託を受けて、平成7(1995)年に『いわき市伝統郷土食調査報告書』をまとめた。それが、食文化の豊穣を思う源になっている。ハマの知人が調査責任者だった。
日曜日(4月1日)夕方、久しぶりに行きつけの魚屋さんを訪ねた。もしかしてカツオが入ってないかと思ってのことだが、空振りだった。代わりに、小さなイカと三陸産のマツモを買った。マツモは早速、みそ汁にした(=写真)。
ようやくだという、マツモが入ってきたのは。厳冬だからか。いや、違った。そもそもマツモは寒流系の海藻だ。寒さより、東日本大震災による地盤沈下が生育に影響したのだという。
『伝統郷土食調査報告書』には、マツモは(1)冬から春によく繁殖する(2)早春の出始めが美味(3)磯のちょっと高い岩場に生息する――とある。いわゆる潮間帯、海に沈んだり空気に触れたりする、微妙な環境の海藻なのだろう。いわきの場合だと、その潮間帯を含む磯が、つまり地盤がおよそ50センチは沈んだ。三陸はもっと沈んだのではないか。
「ちょっと高い岩場」が地盤沈下によって高くなくなった、つまり生息環境が狭くなった。繁殖量が減った。そういうことか。東日本大震災は、場所によっては岩場と潮とマツモの関係、つまり自然と自然の関係を変えた。
(タカじい)
タカじい
「出身は阿武隈高地、入身はいわき市」と思い定めているジャーナリスト。 ケツメイシの「ドライブ」と焼酎の「田苑」を愛し、江戸時代後期の俳諧研究と地ネギ(三春ネギ)のルーツ調べが趣味の団塊男です。週末には夏井川渓谷で家庭菜園と山菜・キノコ採りを楽しんでいます。
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